まーくんと繋いでいた手をパッと離して、えりかちゃんがカウンターの中に走り込んでいく。
それを目で追っていたらグッと強い力でひっぱられ、「わぁ!」と声が出た。
「なにくっついてんの」
目の前には少しばかり不機嫌そうなまーくんの顔。
肩越しに、椅子ごと押しやられてもっと不機嫌そうな本郷の顔が見えた。
「えと」
「痛いな!俺じゃないぞ、そいつが勝手にくっついてきたんだ」
「だからにのちゃんに聞いてんの」
「えーと…」
俺、本郷にしがみついちゃってたんだっけ。
うわぁヤバい。でも人が言い合いしてるのとか、すごく苦手なんだもん。
こっちでも揉めそうな感じにビビってると、
「ケンカしちゃダメ!」
えりかちゃんの高い声に、そこにいた全員の動きが止まる。
まーくんは俺を腕に抱え込んだままだし、マスターはなにか言いかけたまま固まってるし。
最初に動いたのはせいさんだった。
「えりかはさぁ、ママがキレイになるのどう思う?うれしい?」
えりかちゃんの目線にしゃがんで肩に手を置き、せいさんは聞いた。
「え?ママは今もキレイだよ?」
「そう?ありがと。でもよそのママみたいじゃないでしょ。ふつうのママだとうれしくない?」
えりかちゃんはきょとんとした。
「なんで?」
「なんでって…」
せいさんは少し困った顔をした。
まーくんが小声で
「なになに、どうゆうこと?」
と、耳もとで囁くからドキドキする。
腕もゆるめてくれなくて、ガッチリ抱きしめられた状態だし、耳も顔も赤くなるのを止められない。
うつむいて簡単に説明するのも早口になる。
「へっ!?女にって性転換手術でもす…」
大きな声を出すのを慌てて口をふさいだ。
それを聞いたえりかちゃんが心配そうにせいさんを見つめた。
「ママ、どっか悪いの?しゅずつするの?」
「あー、そういうわけじゃないんだけどね」
せいさんはますます困った顔になった。