「小学生の頃にはもう俺がみんなと違うってことは自覚してた。でもそれより前からヒデのことが好きだったよ」

せいさんはそう言った。
俺とまーくんみたいで動悸がする。

「何度告ったことか」

時には軽く、たまには真剣に。
でもその度にフラれ続けること三十年。
「別に俺だって聖人君子じゃないから、フラフラしたりもしたよ。でも結局ダメなんだ。誰もヒデにはなれない」

そういう人生なんだってあきらめていた。
だから結婚すると言われた時も、笑っておめでとうって送り出せた。
ヒデが俺のこと「好き」でいてくれたから。
それが俺の「好き」とは違っていても構わない。

そんな時事故で奥さんが亡くなって。
俺はなにか力になりたくて駆けつけたら、予想以上のボロボロぶりでね。
慣れない赤ん坊を前に二人でてんやわんやさ。
共働きだったはずなのにほとんどパパしてなかったんだなって、俺は怒ったよ。

こんな俺たちだったけど、えりかはすくすく大きくなってね、俺はうれしかった。
女がダメな自分には絶対出会えない自分の子供。
でもヒデの子供なんだから俺の子も同然だろ。
まさかこの俺が、この手で子育てすることができるなんて。

「そしたら、ヒデが指輪をくれたんだよ」

せいさんは少しはにかんで頬をポリポリ掻いた。
怖いくらいの激昂はおさまっていた。
尻もちをついた状態で固まっていた横山が、ヨロヨロ身体を起こし口を開いた。
「それは…結婚しよってこと、ですか?」
「パートナーシップだけどね。まぁそういうことになるかな」
「そんなんあるんかな、だって男とですよ?急にそんな気になります?」
俺そんなん絶対無理やわと横山は顔の前で小さく手を振る。
それはわからなくはない。
元々男が好きなわけじゃないマスターが、せいさんの気持ちを受け入れるて結婚?するなんて、ちょっと考えにくいもんな。

俺は?俺はどうだったかな。
まーくんのお嫁さんになると約束したことを思い出した時。俺も男が好きなわけじゃない。
でも、気持ち悪いとか嫌だとか思わなかった…。

そんなことを考えていたら、すごくすごくまーくんに会いたくなって、こっそりケータイの画面でさっき送られてきたメールを確認する。
「迎えに行くから待ってて」
その文字をそっと指でなぞった。