放課後早々にマスターの喫茶店にむかう。
相変わらず俺の自転車の後ろに乗るのは却下され、わかってはいてもやっぱり少し傷つく。
「二人乗りは禁止されているんだぞ」
なんてお説教までされてしまうし。

俺たちの顔を見たマスターは、「あれ、今日は相葉くんバイトの日じゃないけど」と言いつつ、いつものカウンターの端っこに陣取る俺たちに熱々のコーヒーを出してくれた。
まーくんがいる日にしか来ないことわかってたんだ。理由まで知ってるかはわからない。
カウンター越しのすぐ前で、せいさんが黙々とグラスを拭いている。
揉め事はどうなったんだろう。
マスターはお客さんとはにこやかに会話するのに、せいさんとは目を合わさない。店内の和やかな雰囲気とは裏腹なカウンター内の静けさに、俺はソワソワしてしまい、これまた本郷にシャーペンでつつかれるハメに。

一時間程真面目に数学に向き合って、ようやく本郷の不機嫌な顔もわずかながら緩んだ、気がする。
勉強道具をカバンにしまう本郷の横で、俺はケータイをチェックした。
ここに来る前にまーくんに一応メールしといたんだ。あとからの報告だとゼッタイなんか言われるに決まってるからね。

「迎えに行くから待ってて」

返信を見て呆れた。
俺は小学生か。過保護が過ぎるだろ。慌てて必要ないと返そうとしたその時、お店のドアがカランと開く音がした。

「……いつかの不審者」

本郷の言葉に入口を見ると、そこには横山が立っていた。えりかちゃんのおじいちゃんの研究室にいる大学院生だ。
「その呼び方やめぇや!誤解を招くやろ」
顔を赤らめた横山がカウンターに寄ってくる。
それを見た本郷は、帰るために浮かしかけた腰をもう一度椅子に戻し横山をじっと見ていた。
「今日はお客やで。西島さんの美味しいコーヒー飲みに来たんやから」
「いらっしゃいませ」
マスターが笑顔で応え、席を勧めた。

出されたコーヒーに口をつけ、「うまぁ!」と横山が満足そうに声をあげる。
一息ついたところで、せいさんの存在に気がついたようで、
「あれ、この前のバイトの子と違うな。おっさんになっとる」
おっさん…。
まぁ間違いないけどさ。

「この人がえりかちゃんのママだよ。せいさんっていう…」

俺の言葉を聞き終わる前に、横山は盛大にコーヒーを吹いた。