翌日、本郷に会うと気まずいなと少しばかり憂うつな気分で学校に行った。
しかし本郷はいつもと変わらない不機嫌な顔で、
「昨日できなかった分、今日やるか?」
と聞いてきた。
本来木曜日は翔ちゃんのカテキョなんだけど、今日は用事があるとかで空いてるんだよな。
断りづらくて「うん」と頷いた。
いや待てよ。今日はまーくんのバイトの日じゃないじゃん。自分がいない所で教わるなって言われてるんだった。

「別にあの喫茶店に行く必要ないだろ。図書室でも、教室でも構わない」

本郷の言う通り。そうなんだけどさ、そうもいかないのよ。せめてマスターの目撃証言がほしい。
「ほら、やっぱりお礼したいし」
「それなら学食の自販機のでいい」
「いや〜、どうせなら美味しいのがよくない?」
あぁめんどくさい。
自分でもバカらしいと思う。
でも約束は約束だから、マスターに二人きりじゃないと証言してもらわないと。
本郷は不審そうな表情で俺を見ていたが、ため息をひとつついて了承してくれた。
「おまえ、変なやつだな」
うわぁ、ヘンなやつに変なやつって言われちゃったよ。


お昼にお弁当を持って潤くんの教室に行く。
やけにカラフルなお弁当を食べる潤くんが俺に聞いてくる。潤くんのお弁当はいつもキレイなんだ。
「どう?本郷とは上手くやってる?」
「え〜まぁそれなりに。あいつ、意外に真面目だし、教え方も丁寧なんだよね」
潤くんはうんうん頷く。
「実は本郷って、先生たちのウケもいいんだよ。仏頂面だけど、責任感が強くて頼まれた仕事もキチンとこなすんだってさ」
だから俺の数学の事も持ちかけてみたんだと潤くんは笑った。
「へえぇー。よく断らなかったよね、あいつ」
「大野さんの絵、ほらニノのこと描いた絵を貰ってしまったからと言ってたよ」
「えっ」
そうだったんだ。
あげたのはまーくんだけどね。
案外義理堅いんだと感心して、ふと廊下に目を向けると、通りかかった本郷と目が合ってしまった。
「うわ」
口の中で叫んで、とっさに潤くんの影に隠れて「なにしてんの」と呆れられた。
もう一度廊下をチラリと見たが、本郷は立ち去ったあとらしくいなかった。そんな俺を見て、
「ねぇ、本当にちゃんと教えてもらえてる?」
潤くんに心配された。
だってあいつ、眼光鋭すぎない!?
そういえば笑った顔を見たことないことに気がついた。