「まーくんはマスターにえりかちゃんのママのこと、なんも聞いてなかったの」

ようやく味がはっきりわかるようになったポテチをパリパリ食べて指を舐める。今度はまーくんに舐められないようにしないと。ヘンな声出るからね。

「幼なじみだって事とすごいお人好しだってことくらいかなぁ。ママって呼ぶから、まさか男の人だとは思わなかった」
「そりゃそーだ」
「元美容師だから、毎朝えりかちゃんの髪の毛をキレイに編み込んでたとか言ってたし」
ああ、編み込みってキレイにするの結構面倒らしいよね。朝、時間が無いのに、母さんが姉ちゃんの髪の毛を結い上げるのに苦労してたもんな。

そんな話している途中、まーくんが俺の方に手を伸ばしてくるのを察知した俺は、すかさずまーくんの口の前ににポテチを差し出した。
「………ん」
反射的に口を開けてもぐもぐしてる。
驚きもせず食べてるのはさすがだけど、ふふふ、してやったりとこっそりほくそ笑む。

「……うまっ!」

それからまーくんは「おかわり」と言わんばかりに「あーん」と俺に向かって口を開けてみせた。
マジか。
どんだけ前向きなんだよ。
くそぅ、なんだか負けた気がする。
しかたなくその口にポテチを入れてあげたら、その手を掴まれてあっさり指も食べられてしまった。
ほんと、こういうところは勝てない。

「ちょ、ちょ、ちょっと…」

もはや目的がポテチから俺の指そのものに変わってないか!?まーくんの舌の感触に、おなかの底がゾワゾワしちゃう。もぉー、わざとやってるだろ。
俺はなんとか掴まれてる手を引っこ抜き、チョコクッキーを放りこんだ。
「はいはい、次は甘いのね!」
「かずの指のほうが甘いのにぃ」
うわぁ、なに言い出すんだよ、恥ずかしいっての。
たまらずテーブルの反対側に逃げ出した。