「どした?」

まーくんの優しい声に、俺は黙って腰のあたりに抱きついた。まーくんは「よしよし」と俺の頭を撫で、階段に並んで座ってくれた。

「本郷、帰ってったよ」
「………ん」

せいさんとマスターのこと、えりかちゃんのこと、本郷のことも含めて、いろいろまーくんに話したいと思うのに。
頭の中がぐるぐるして、うまく言えない。
あれこれ同時に起こりすぎ。

「俺たちも帰ろうか」

まーくんはなにも聞いてこない。
俺がぐるぐるしてるってわかるのかな。
2人で手を繋いで階段をおりる。

ああぁ、自転車を学校に置いてくればよかった!

……なんて。
ついさっきまで、乗せてもらうのは悪いとか思っていたのが嘘みたいに、今はまーくんの背中にくっついて帰りたくなってて、我ながら呆れた。
だから、わざと力一杯ペダルを漕いだ。
甘える気持ちを吹っ切りたくて。

「ちょっとぉ!なんでそんなに急いでんの」

車庫に自転車を突っ込む頃に、ようやくまーくんが追いついてきた。
「なになに、早く帰って俺とイチャイチャしたかった?それなら夕ごはん食べたら俺んとこおいで」
すぐそんなこと言って。
見透かされてるみたいで落ち着かなくなる。
いや、違う!違うだろ、俺!
今日はそういう気持ちを我慢しようと思ってるんだから!
「今日はやめとく」
「なぁんで」
「これでも一応受験生なんでっ」

まーくんは「ふーん」と言いながら、するりと俺を腕の中に収めた。あんまり自然で素早いから、抗う暇もない。あっという間にキスされていた。

「……んっ、もう!なにすんだよ!」
「今日は素直じゃないなぁと思ったから」
「周りから天邪鬼と言われてるの知らないの」
「え?かずは素直でしょ、いつも」

そう言って、まーくんはくふくふ笑った。

「甘えたい時は我慢しなくていいんだよ」

やっぱりなんでもお見通し。
俺はまーくんの上着の裾をいじいじしながらため息をつく。

「……あとで行く」

こうやって結局甘やかされる俺。
大学生になったまーくんは、これまでよりずっと大人になったみたいで、なんだか焦ってしまう。
ほんの数ヶ月前まで同じ高校生だったのに。
歳だってひとつしか変わらないのにな。

そんなことを思いつつも、夕ごはんを急いで食べてる俺だった。