翌日はまーくんが学校まで自転車で送ってくれた。自分の講義は二限目からで早く起きる必要はないのに、わざわざ朝早くうちまで来てくれてさ、ほんとに律儀だよな。
校門の前で自転車からおりたら、丁度本郷が歩いてくるところに出くわした。
みるみる曇る表情に、舌打ちが聞こえてきそうだ。
「おっはよ!本郷クン」
あっと思った時にはもう、まーくんの腕が本郷の肩をガッチリ固定していた。
「うちのにのちゃんがお世話になって悪いね!」
「……それも昨日までじゃないっスか?」
「いやいや、よろしく頼むよ。数学ヤバいからね。今日もあの喫茶店で待ってるからねっ」
うわぁ、怖いこわい。
ニコニコしてるようで目は笑ってないまーくん。
無理やり肩を組まされてる本郷は、チラリと俺を見てから、「了解」と低い声で答えた。
まーくんはバシバシ本郷の背中を叩き、俺の前に戻ってくると、両手で俺の頭と言わずほっぺたまでわしゃわしゃした。
わんこか俺は。
そして手でほっぺたを挟んだまま
「がんばろうねっ」
と目を細める。
俺はもう恥ずかしくなって「わかってるって!」と逃げ出し、本郷より先に校門をくぐった。
後ろからまーくんが手を振って見送ってくれてるのを背中に感じたけど、振り返らずに手だけ振り返しておいた。
追いついてきた本郷がポツリと言う。
「クビかと思ったが」
俺もそう思ったよ。
時々謎なんだよな。
「昨日は俺、ヘンなこと言ってごめん」
俺は素直に謝った。本郷は答えず、黙って横を歩いている。まぁ、本郷だしと、気にせず朝補習の教室に向かおうとした。
「俺は誰のことも好きじゃないし、特にオンナが嫌いだ。おまえはマシなほうってだけ」
えーと。俺、告白されてる?
どこにツッコんでいいのかわからない。
とりあえずわかりやすかったとこを聞いてみる。
「オンナ、嫌いなんだ?」
「別に男が好きなわけじゃないぞ。母親が苦手なせいだ、きっと」
そっか。
なんか、本郷もいろいろあるんだなぁ。