結局お店はいつもよりずっと早く終わった。
泣き疲れたえりかちゃんは寝てしまうし、えりかちゃんのおじいちゃんのスパイ?である横山まで一緒になって片付けを手伝ってるし。
常連さんたちも早々に帰っていき、洗いものを終えたまーくんも「帰ろ帰ろ」と俺の背中を押して、二人で店を出る。
チラリと振り返ると、店の中でマスターと横山が話し込んでいるのがドアの隙間から見えた。
「ほら、乗って」
まーくんが自分の自転車の後ろを指さす。
「え、俺、学校に自転車置きっぱなんだけど」
「いいから。ほら、乗る!」
えぇぇ。なにがいいんだか。
明日の朝困るの俺なんだけど。
ブツブツ言いつつも、後ろに乗るのも久しぶりで、少しばかりにやけてしまう。
まーくんの温かい背中にぴっとりくっついて、そのにやける顔を隠した。
俺は荷物だけ家に置くと、そのまままーくん家に連行された。おなか空いてるんだけどなぁ。
部屋に入るなり、まーくんは言った。
「はい!やってみて」
「え、え?なにを?」
「かずが本郷にされたっていう壁ドンだよ!俺にしてみ?」
はあぁ?
なにを言い出すやら。
俺はあきれて、「なんでぇ?やだよ」と座りこもうとしたけど、腕を掴まれて壁に追いやられた。
なんだよ、おまえが壁ドンやってるじゃん。
「やれって」
すぐ近くで囁かれる。
うわうわうわ。本郷の壁ドンと全然違う。
ドキドキするっていうか、ゾクゾクするっていうか、お腹の底のほうがずぅんと沈みこんだみたい。膝がまたカクカクしそう…。
それもなんだか悔しくて、俺はくるりと身を返し、
本郷がしたみたいにまーくんの首を手で掴んだ。
「おまえはっ」
強く壁に押しつける。
まさにドンっと音がした。
「ほんっとうにバカだな」
今度は俺が囁く。
まーくんは目を見開いて俺をじっと見てる。
どうだ、驚いたか。俺だってやればできるんだぞ。
本郷のマネだけど。
驚いてるまーくんがやけに可愛くて、俺はたまらずちうぅとキスをした。