「な、なんだよそれ。違うし!」
「そこでムキになるところがバカなんだよ」

ゔっ…。
ぐうの音も出ないとはこういう事をいうのか。
俺はむくれてポケットに手を突っ込んだ。

「あいつのどこがそんなにいいんだか」
「まーくんの良さがわかんない本郷だって、バカだだと思うけど!」

本郷はムッとしたのか、俺をひと睨みした。

「おまえはズルいんだよ。あいつが飛んでくるとわかってるから大袈裟に泣いてみせる」
「はぁ?そんなことしてない」
「チビの頃からわかってやってるだろ。泣けばあいつがおまえを甘やかすってね」
うわぁムカつく。
俺は言い返そうと口を開きかけた。

「泣いても無駄だと知っていたら、あんなふうには泣かない。泣きたくても泣けない奴だって、世の中にはたくさんいる。おまえのはただの甘えだ」

そう断言されて俺は腹が立ち、ちょっと我を失ってしまった。

「なんでそんな事おまえに言われなきゃなんないの。本郷こそなんだよ、小さい頃からさ、俺にやたら絡んできてさあ!なになに、もしかして俺のこと、好きだったりするわけ?」

冗談のつもりだった。
たぶん、「ただの甘え」というのが図星だったんだろうな。自分でも思いがけないほど胸にキて、恥ずかしかったんだと思う。
だから軽い調子で混ぜっ返したかったんだ、俺。
でもそれ以上言えなかった。
本郷の手が俺の首を掴んで、後ろのコンクリートの壁に押しつけたからだ。
強い指が喉にくい込んで痛い。
本郷の怒った顔がすぐ近くにあった。

「おまえはっ…」

さっきの失言を後悔する暇もなく、謝る間もなく、
本郷の唇が俺のをかすめる。

「……ほんっとうにバカだっ!」

それだけ言うと手が離れ、本郷は背中を向けて歩いていってしまった。
俺はボーゼンとその後ろ姿を見送り、ズルズルと壁伝いに尻もちをついた。

…うん。俺バカかも。

自分で自分にガッカリした。
情けない。子供か、俺は。
なんであんなこと言っちゃったんだろ。
本郷にまさかの壁ドン?されたことも、なかなかにショックだ。
俺は立ち上がる気力もなく、ぼんやりとその場に座り込んでいた。

泣きたくても泣けない子供。
それは本郷のことなのかな…?

俺は本郷の言葉をずっと反芻していた。



どれくらいそうしていたんだろう。

「かず!?」

気がついたら、座り込んでいた俺の前にまーくんが立っていた。