俺は思い違いをしてた。
とびきり可愛いお人形みたいな顔で、俺たちのこと呼び捨てにしてくるえりかちゃんのこと、小学一年生なのに大人びてるなぁと感じてた。
本当のお母さんのことも、ママの家出のこともサラリと話してくれたし、クールっていうか、そうじゃなきゃまだ全然わかってないのかと思ってた。
でもそんなことなくて。
ほんとは全くそんなことなかった。

全身で泣いているえりかちゃん。
ずっとずっと小さな身体の中に、いっぱい溜め込んでたんだね。
ツラい気持ち、寂しい気持ち、そして罪悪感。
俺はたまらず、「えりかちゃんのせいじゃない!」と叫びそうになった。
しかしその前に、マスターがカウンターの中から飛び出してきた。そしてえりかちゃんを腕にしっかり抱えると、片手でケータイを耳にあてた。

「おい!いい加減帰ってこい!えりかが泣いてる、自分のせいでおまえが帰ってこないんだと泣いてるんだぞ!!」

いつも穏やかなマスターの、見たことのない剣幕に俺たち全員凍りついた。
いや、残っていたお客さんたちは皆「うんうん」と頷いていたから、どうやら常連さんらしい。

「今すぐにだ!」

そう叫んで、マスターは電話を切る。
様子から見て留守電に入れたみたいだ。
それからえりかちゃんを抱えて椅子に座り、背中を撫でてなだめた。
えりかちゃんはあんまり泣いて、涙と汗と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまい、まーくんがタオルで優しく拭ってあげた。
あぁ…俺の時と同じだ。
俺が息もできないほど泣くと、あんなふうに優しく拭いてくれるんだ。
そう思うだけで、胸の奥がキュッとなった。
今すぐその背中に抱きつきたくなる俺は、やっぱり少しヤバいのかもしれない。
勝手に赤くなる耳をこっそり手で隠す。
と、本郷と目が合った。

「帰ろう」
「えっ、あ、えっと」
「とても勉強できる雰囲気じゃない。あとは家族の問題だ」
「……うん」

本当はまーくんが帰るまで待ちたかったけど、しぶしぶ本郷について店を出た。
まーくんの視線を痛いほど感じる。
でも俺は振り返らなかった。
目を合わせたら、さっきのヤバい気持ちが伝わっちゃいそうな気がしたから。


店を出てしばらく行くと、本郷が前を向いたままポツリと言った。

「ヤキモチか」

ななななにをいってるのでしょーか!?
やっぱりコイツ、ヤバい!ヤバいだろ!!