ついこの前受けた実力テストがもう返却されてきた。数学が壊滅的で俺は机に突っ伏した。
数学の教師曰く「実力テストは採点がカンタンなんだよな。なにしろほとんど白い答案用紙に、バツをすーすーっと書くだけだから」だってさ!
こんなテストで満点近くを取る本郷は宇宙人に違いない。
その宇宙人が不機嫌そうな顔つきで言った。
「なんでわざわざ喫茶店に行って勉強教えなきゃならないんだ」
そりゃ、まーくんの申し付けだから…とも言えず、俺は手を合わせて小首を傾げる。
「ほら、大事な時間を割いてもらうんだし?お礼にコーヒーご馳走するからさ」
奢るのは俺じゃないけどね。
本郷はふぃっとそっぽを向いて歩きだした。
「さっさと行くぞ」
大股で歩いていく本郷のあとを、俺は小走りで追いかけた。
途中、ケータイが震えてまーくんからメールが入る。今日はバイトに少し遅れるらしい。
簡単な返事を送ろうとした時、いきなり腕をひっぱられた。
「うわっ」
俺のすぐ横をかなりなスピードの自転車が通過していく。危なかった。
「あ、ありがと」
俺の腕を掴んでいた本郷は、無言のまま俺を押しやると、あとはポケットに手を突っ込んで車道側を歩いていく。
なんか調子狂うなぁ。
はからずもドキドキしてしまった。
店について、マスターに挨拶する。
マスターはにこやかに笑って、今や俺の特等席となったカウンターの端に二人分のコーヒーを出してくれた。
何を話していいかわからないし、とりあえず半分以上真っ白な数学の実力テストをリュックからひっぱり出す。そして隣に座った本郷に解説してもらおうとしたら「待て」と遮られた。
「はっきり言って俺には、おまえがなぜわからないのかが解らない」
「…えぇ?」
そっか。解って当たり前のコイツには、わからない俺が理解不能ってわけだ。
「おまえは特に関数が苦手みたいだが、今ここでこの問題を説明しても時間の無駄だ」
うわぁ、ヤダもうコイツ。
じゃあどうすんのさ、無理じゃん。
めげそうになる俺に本郷は言った。
「まずは教科書の基礎からやり直す。それが結局早道だ」
俺は目をみはった。
黙って本郷の顔を見ていたら、「早く教科書を出せ!」と眉間に皺を寄せられた。
本郷の説明は意外に丁寧でわかりやすかった。
そして俺が問題を解いている間、ノートの上の俺の手元をじっと見ている。
なんか、やっぱり調子狂う。
なんか、なんか落ち着かないんですけど!
まーくんのせいだ。
まーくんがヘンなこと言うから。
妙に意識しちゃうじゃん!