真っ暗にするとかずくんが怖がるから、一番小さい明かりをつけておく。
母ちゃんが布団を二枚敷いてくれたけど、俺たちは一枚の布団でくっついていた。
耳を澄ますと外から虫の鳴く声が聞こえる。
もう夏休みもあと二週間くらいか。

隣を見ると、かずくんが眠そうに目を擦っていた。
まだまだたくさん話したい気がしたけど、やめてタオルケットを掛けてあげる。
「お祭り楽しかったね」
かずくんがふにゃふにゃした声で言った。
うん。かずくんもまだ話し足りないんだね。
不思議だな。毎日いっぱい話してるのに。
「あの黒いの、コウモリさんでよかったぁ。オバケかと思ったもん」
オバケきらいって俺の腕に絡みついてくる。
「大丈夫!俺がやっつけるから」
そんなこと絶対無理だけど、せいいっぱい強がってみせたら、かずくんが「んふふ」と笑ってくれた。
頭を撫でてあげる間に、もう寝息を立てていた。
俺はかずくんのほっぺたの辺りがまだ赤ちゃんみたいな寝顔をながめた。

本当は聞きたいことがあったんだ。
さっちゃんはかずくんのお姫様なのかって。
でも言えなかった。
だってさ、そうだよって答えが返ってきたら、俺はどうなる?どうすればいい?
怖くて聞けなかった。

「かずくんは、俺のお嫁さんになるんだよね」

眠ってるかずくんには届かないけど、小さな声でそおっと聞いてみる。かずくんは口をむにむにさせて「ん」と声を漏らした。
俺はうれしくなって、かずくんのちっちゃな手を握った。もちろん今のは寝言だってわかってる。
でも繋いだ手に赤い糸が結ばれてるのが、ハッキリ見えたみたいに思えたから。
そしてそのまま俺も眠ってしまった。



それから残りの夏休みのほとんどをかずくんと過ごすことができた。
さっちゃんは九州のおばあちゃん家に行ってるらしい。かずくんのママが言っていた。
遠くのおばあちゃん家に遊びに行くって、ちょっと憧れるよなぁ。俺もかずくんも、おばあちゃんたち近くに住んでるから、そういうの経験したことないもんな。

こうして楽しい夏休みはあっという間に終わってしまった。