まーくんに言われていても、ついさっき由里子ちゃん本人に「好きだった」と言われても、俺には好かれていたという実感がない。
菅田はいつから知っていたんだろう。
なんにもわかってなかったのは俺だけ。
あまりの自分の鈍感さに、いたたまれない気持ちになって何も言えなくなってしまった。

「二宮くん気がついてなかったやろ?」
「…………うん、なんか、ごめん」
「え〜謝ることないよ。相葉先輩の言う通り俺はまだまだよ」

菅田はポロンと弦を弾いた。

「わりとマジで応援してたし」
「え?なんで。そんなことある?」
「う〜ん、まぁ好きな子には幸せになって欲しい!みたいな」
これも博愛主義と言うのだろうか。
ハハッと声を上げて笑った菅田は、とてもとても優しい顔をしていた。
違う。菅田は本当に由里子ちゃんのことが好きなんだ。好きで大事で。だからあの子の幸せが最優先。

俺もこの前考えたじゃん。
もしまーくんが、俺よりももっと大事にしたい誰かに出会ってしまったらこの手を離そうって。
まーくんの幸せが一番だからそうしようって。
でもホントは自信がない。
まーくんの手を離すなんて。
そんなことが俺にできるんだろうか。
だってもう、想像しただけで胸が苦しい。

「二宮くん?え、泣いてるの?」
「……へ」

気がつくと菅田の顔がぼやけてて、自分が涙目になっていることに驚いた。

「いや〜俺のために泣いてくれてるの〜?」

可愛いなあ!とうれしそうにするから、「ちが、ちが」と慌てて否定したのに余計に喜んで俺の手をぎゅうぎゅう握ってくる。

「大丈夫!俺はがんばるよ。いつまでもまだまだな男じゃいられない。誰よりも、俺が由里子ちゃんを一番幸せにすればいいんだ。」

俺は潤んだ目を見はった。
そうか。そんな考え方もあるんだ。
こういうのを目からウロコって言うのかな。
まーくんの幸せを願うなら俺が一番幸せにする。
それ最高じゃん。
菅田はやっぱりスゴい。
感動のあまり菅田の顔をじっと見入る。
しばらく俺たちは手を取り合ったまま見つめ合っていた。


「なぁに泣かしてんの」

聞き慣れた声に振り返ると、入口に不機嫌そうなまーくんが立っていた。
その様子に急いで手を離す。
「泣かしたなんて、人聞き悪いなぁ〜」
「げんに泣いてるだろっ。ほら、行くよ!」
ニコニコする菅田にツッコミながら、まーくんが俺の手を取り廊下にひっぱり出した。
俺は声に出さずに「ありがとう」と口を動かして伝え小さく手を振った。
菅田はやっぱりふわふわ笑って大きく手を振り返してくれた。