夕方、しょうちゃんが家庭教師に来るからとまーくん家にひっぱられて行った。
「えぇー、ゲームしようと思ってたのにぃ」
「何言ってんの。ずっとサボってただろ」
サボってたわけじゃないもん。
だいたい俺の家庭教師じゃないし。
勝手に勉強会とか言ってさぁ。今日は潤くんも来るのかな?
まーくん家にはすでにしょうちゃんと潤くんが来て待っていた。
「おいおいおい、たるんでるぞ!入試は待ってくれないんだからな!」としょうちゃんに背中をバシッとやられたまーくんは、「ウッス!」と気合いを入れ直してる。
受験モード全開な二人に、二年生組の俺と潤くんはテーブルの隅でおとなしく問題集を開いた。
ものの数分で眠くなってきて、俺はちょっとウトウトしてしまった。
昨日はよく眠れなかったし、今日は今日でめっちゃ疲れたし。まーくんって体力バカだよな。
首がかくんとなって目をこする。
「…あれ?」
いつもならこんな俺に一言注意するはずの潤くんが何も言ってこない。
見れば珍しくぼーっとしてる。
「潤くん大丈夫?」
こんな俺が言うのもなんだけどさ。
聞けばなんと!今日大野さんと美術館展に行ってきたんだって。
この二人、静と動って感じで真反対に見えるのに意外にウマが合うみたいなんだよな。
「すっげー良かったよ!ニノも行ってみれば」
目をキラキラさせて、潤くんがカバンからパンフレットを出してきた。それと一緒に見覚えのあるスケッチブックがこぼれでる。
「それ!大野さんのスケッチブック」
思わず指さすと、潤くんはちょっと照れくさそうに笑って、
「あ、これ?大野さんがくれたんだ。一緒に行くって言ったらすごい喜んでくれて、古いやつだけどニノ描いた時のだからって」
へぇぇぇぇ!
俺の前ではほとんど笑わなかったくせにさあ。
少しばかり面白くなくて、照れる潤くんからスケッチブックをぶんどってパラパラめくった。
そこにはたくさんの俺がいた。
真正面の俺の顔。横顔。
笑ってる顔。寝てる顔。
どこか遠くを見てる顔。
俺ってこんな顔してるんだ…。
そんなページの端っこに、いつか描いてくれた背中合わせにくっついた、例の二人でひとつの人の姿を見つけた。