ドタドタと階段を転げるように降りていく音で目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。
「遅刻ちーこーくー!」という騒がしい姉ちゃんの声が玄関から出て遠ざかっていった。
のどが渇いていたので起きて台所をのぞいた。
母さんはもう出かけたみたいだ。テーブルの上に朝ごはんが用意されていた。
まだ昨日の焼肉が胃の中に残ってる気がする。
とりあえず冷蔵庫から出した水を飲んでいるところでチャイムが鳴った。
「ただいま留守にしております」
「って留守電かよっ。あけて開けて!」
しょーがないなーと開けると、ニコニコ顔のまーくんが俺の頭をわしゃわしゃしてきた。
「おはよ!」
「…おはよぉ」
ダメだ。不機嫌装うつもりが勝手に顔がにやけちゃう。まぁどうせ耳が赤くなってるだろうことは自分でもわかってるけどね。
急にドキドキしてきた。
「あれ、これから朝ごはん?」
「そうだけど、あんま食欲なくて」
胃もたれ気味なんだと言っても、まーくんは「ダメダメ。ちゃんと食べないと大きくなれないよっ」と世話を焼き始める。
食べたってもう大きくなんかならないやいと思ったけど、おとなしくトーストしてくれたパンをかじった。
まーくんは他愛のない話をしながら、俺の飲みかけのオレンジジュースを勝手に飲んでる。
その口元を見ていて気がついた。
さっきまでの食欲不振は胃もたれのせいだと思っていたけど、もしかしてこのドキドキのせい?
緊張してるんだ、俺。
なんでだ?初めてってわけでもないのにさぁ。
それに気づかれたくなくて、俺は食べてたパンをひょいとまーくんの口に押し込んだ。
「……ん、うまっ」
とくに驚きもせずふつーに食べてる。
そしてお皿にのっていたプチトマトを手に取ると
「はい、あ〜ん」
と、ニコニコ差し出してきた。
うわぁ恥ずい。
いつもみたいに「これ食べてみ?」とか差し出されたら平気なのに、「あ〜ん」とされるとがぜん恥ずかしく感じる。余計なことしなきゃよかった。
しかたなくパクリと食べ、残りのジュースを流し込む間に、まーくんは空いたお皿をシンクに運んで洗いだした。
俺はその背中をじっと見てた。
大好きな背中。ぴとっと張りつきたいな。
俺の安全地帯。
なのにドキドキがおさまらなくて、立ち上がれなかった。だってくっついたらこの心臓の音が聞こえてしまいそうだったから。