「バカなの!?やめろって」
忍び込んでくるまーくんの手から逃れようと、まさに脱兎のごとく(さっきまでうさぎだったしね)飛びのいた…つもりだった。
でもそのうさぎの着ぐるみがまさかの邪魔をする。膝下辺りでかたまりになってて足が自由になりゃしない。
その隙にまーくんの手が直に触れてきて、俺は小さな悲鳴をあげた。
「こここんなとこでどうすんだよっ」
「大丈夫だいじょぶ」
ほら、また二回繰り返した。
大丈夫なわけあるか!
「で、出ちゃったら、あと困るじゃん…」
思わず声が小さくなる。
まーくんはちらと俺を見て余裕の笑みを見せた。
「大丈夫だって。口でスルから」
はああぁぁぁ!?
あまりのことに二の句が告げない。
そこからの攻防戦は一進一退。
とはいえ俺のほうが断然不利なわけで。
だってこいつは攻めるだけなのに、俺は攻撃を防ぐだけでなく、欲とも戦わなきゃならないんだから。
いちいち触り方がヤラシイんだよ。
うぅう、キモチヨクなっちゃうじゃん…。
「もおぉ、ダメだってぇ」
ヤバい防御力ゼロになりそう。
なけなしの攻撃力で抵抗してみるけど、覆いかぶさってくるまーくんには効き目がない。
顔を埋められ、ソコに熱い息を感じた。
なんの前触れもなくドアが開いて、俺たちは飛び上がった。
薄暗い倉庫の中に四角く切り取られた光が差し込み、その真ん中に長い耳の生えた丸い大きな頭の男の影。
「「うわああ!!」」
三人同時に叫んだ。
「その声は斗真だな!なにしてんの」
「そっちこそなにしてんスか!?」
「なんでうさぎになってんだよ」
「いやいやいや、ええぇ!?先輩たちっ…」
二人がヤイヤイ言い合ってる間に、俺はまーくんの影に隠れてシャツをズボンにつっこんだ。
まーくんは俺を後ろに隠すように庇いながら、うさぎ男の生田とやり合っていた。
生田に見られた。たぶん。
だからヤダって言ったのに。
もうホントに引きこもり決定だ。
俺はいつの間にか足から脱げてくしゃくしゃになってたうさぎの着ぐるみを胸に引き寄せて、涙が滲んだ顔を伏せた。