会場は静まり返っていた。
みんなが菅田に注目している。
菅田は一度顔を両手で擦ってから、ひとつ息を吸う。その目は俺をしっかり見つめていた。
「俺はやっぱり由里子ちゃんが好きだ。俺と付き合ってください!」
へえええぇ!
菅田の好きな人って由里子ちゃんだったんだ。そういえば前にフラれたとか言ってたな。
なんだ、ずっと好きだったんじゃん。
なんて、のんきに菅田を見ていたら、会場のほとんどの視線が俺に集中していることに気がついた。
え?
あ、え!?
俺か!俺が返事するのか。
いや無理、無理無理、できないよそんなの。
俺、由里子ちゃんじゃないもん。
由里子ちゃんが好きなのはまーくんだとは思うけど、ほんとにそうなのか知らないし。
勝手なこと言えないよ。
そう思うものの、中身が俺だとは知らない会場のほとんどの人はこのピンクのうさぎが由里子ちゃんだと思ってるわけで。
俺の、いや由里子ちゃんの返答を固唾をのんで待っている。
ええぇ、どうしよう。
どうすればいい?
由里子ちゃんはまだあの倉庫に隠れているのだろうか。
ハイともイイエとも言えずおろおろしている俺の元へ生田が慌てた様子で飛んできた。
「えーとですねぇ、うさぎちゃんどうしましょうかねぇ。えー?なになに?」
うさぎ語の通訳のフリでなんとかごまかそうと、「ここはごめんなさいだ」と声に出さずに口を動かすから、俺も必死にうんうん、うさぎの頭を取れそうなくらい振った。
生田が勢いこんで話そうとしたところで
「ちょっと待ったぁ!」
何人かの男子が立ち上がって、なんと俺も俺もと告白しだした。思わぬ展開に俺たちはぼう然と立ち尽くす。
いやでもそうだよな…さすが由里子ちゃん。美人だし気も利くし、こうならない方がおかしいくらい。まーくんだって美人だって感心してたしさ。まーくんもああいう子なら……とか、考えてる場合じゃない。
とりあえず全員に「ごめんなさい」だと、生田の背中をぎゅーぎゅー押した時だった。
「なになに、みんな青春してるなぁ!」
明るい声が会場に響いた。
え…、まーくん?
まさかまーくんも由里子ちゃんに告白!?
まーくんの姿を目にして、俺は生田の腕にすがりついたままその場にズルズル座り込んでしまった。