出揃った出場者たちが自己PRしている。
生田との掛け合いで会場が笑いに包まれなかなかの盛り上がり。
俺は最後にエントリーしたらしく、一番端っこでイヤな汗をかいていた。
石化は解けても根本的にうさぎになる魔法(そんなのあったっけ?)が解けないんだもん。
いや、今解けちゃマズイのか。
PRの順番が迫る。
ああ、そこの階段から逃げだしたい。

ついに順番がきて、生田にマイクを向けられる。

「おやおや〜?可愛いうさぎちゃんですねぇ。では会場のみんなに一言どうぞ!あ、一言でなく二言でも存分にどうぞ〜」
「………」

俺はふわふわの手を口に当てて、それから顔の前でバツを作ってみせた。
一言でも話したら由里子ちゃんでは無いことがバレてしまう。

「んん〜??うさぎちゃんは恥ずかしがり屋さんなのかな〜??それともうさぎ語なのかな。それなら俺が通訳しますよぉ!」

生田、うるせぇ。
うさぎ語ってなんだよ、おまえ知ってんのかよ。俺は喋れないの!

「さぁさぁ可愛い声を聞かせてくれぇ!」

うぉぉ、こいつの頭をはたきたい。
俺はしかたなく生田の腕をとると、耳打ちするような仕草をした。
生田はマイクを遠ざけると、「いや〜照れるなあ」などと言いながら顔を寄せてきた。

「どしたの、吉高サン」
「だから違うんだって。俺、俺、二宮だよ」
「???」

生田はパンを丸飲みして喉に詰まった時みたいな顔で目を見開いた。
「おま……!」
叫びそうになる口に、よろけたフリしてふわふわの手を突っ込む。
「ぐふぅ…っ」
勢い抱きつくような形になったから、キャーっと黄色い歓声が上がった。
「由里子、大胆ーー!!」

目を白黒させてる生田に小声で、訳あって由里子ちゃんのフリをしていることだけ伝える。
「なぁんだか、ええと、大変恥ずかしがり屋さんということで、ええ、みなさんよろしくだそうでぇす!」
半ばヤケ気味にマイクに向かって叫んで、生田はステージの中央に戻っていった。


その後コンテストは順調に進んで、投票の結果今年のミス、ミスターN校は双子のメイド兄妹に決まった。
隅にいた俺にはよく見えなかったとはいえ、めっちゃ可愛いと思った方が兄だったのが地味にショックで。やっぱりうさぎの目だからかなあ?
でもとりあえずなんとか切り抜けられた。
あとは告白タイムだけだし、早いとこ逃げだしたい。
俺は様子をうかがいながらスキを狙っていた。


笑い声やはやし立てる声で賑やかな会場が、にわかにどよめいた。
階段ばかりチラ見していた俺は、その変わった空気に顔をあげた。

「由里子ちゃん!」

大勢座っている観客の中で、菅田が一人立っていた。