「由里子〜!」
「いたいた!ほら行くよ!」
「ヤダじゃないんだからね!」
「これいいわ〜。可愛いじゃん」
「ほら、早くはやく!!」

何人かの女子がわぁわぁ言いながら俺を取り囲み、あっという間に俺を抱えるようにして走り出した。
それに気づいた実行委員女子がなにか叫んだみたいだったけどもう遅い。
俺はあっけなく拉致られていた。

「……ふ、…んぐっ」

俺もなにか声を出そうとしたけど、うさぎの顔?頭?がひっぱられてのどが苦しい。
へんな声は出ても、かしましい女子の笑い声にかき消されてしまう。
女子たちはキャアキャア大盛りあがりで、もはや俺の理解不能な言語で会話していた。
そのままよく前も見えない状態で、騒がしい場所に連れてこられた。

「はいはーい!出場完了!!」

高らかな女子の声に、なにやら歓声が上がる。
ようやく解放されて、ズレかけたうさぎの頭を戻すと狭い視界にたくさんの人が映った。

なんだなんだ、なんだったんだ。
……ん?ここ、俺知ってるな。

そう、そこはミスコンの会場。
しかも俺が立っているのは出場者の並ぶステージ側だった。
そして本日の司会者、生田斗真の声が響く。

「さぁさぁ今年も始まりました、毎年恒例N校ミス、ミスターコンテスト!果たしてどの出場者にその栄冠は輝くのでしょうか!?全ては皆さまの投票次第。どうぞよろしくお願いいたします。投票方法は…」


まさに青天の霹靂。
頭の中では(なんだこれなんだこれなんだこれなんだ…)の無限ループ。
外側はピンクのうさぎでも、中では完全に石化状態。このままじゃ完全にゲームオーバー。
リセット、リセットボタンはどこだ…

「由里子可愛い〜!!」

ゆりこ?
ゆりこってなんだっけ
………あ、俺か!

俺の狭い視界に手を振ってるたくさんの女子が入った。由里子ちゃんの友達かぁ。
ようやく我に返って手をぷるぷる振り返す。

しっかりしろ俺。
このピンクのうさぎが俺だなんて知られたら、ドン引きされるかいい笑いものだ。
ここは由里子ちゃんで乗り切るんだ。
俺は今由里子ちゃん、由里子ちゃん。

自己暗示のごとく名前を唱えて、あらためて可愛くお手振りしてみる。
イメージはあの夢の国のくろいネズミ。
ちっちゃい頃みんなで行って、あの顔のデカさにビビって泣いたっけ。
「大丈夫、こわくないよ」
そう言ってまーくんが手を繋いでくれたな…。

いつの間にか心の中で唱えていた名前が「まーくん」に変わっていた。