菅田の言葉は会場を混乱に陥れた。
ポカンとしてる観客の中で悲鳴をあげてるのはたぶん軽音部の女子部員。
ステージに詰め寄ってるのもたぶん部員達。
そりゃ一応みんな彼女?だもんな。
先頭にあの茶髪女子がいるのが見えた。
菅田はただただ謝っているみたいだった。

会場は騒然となり、俺たちはお昼休憩も忘れて事態収拾に必死にあたった。
静かになったのは、菅田がパニック状態の女子部員を引き連れて会場を去ったあとだった。

「なんだったんですかねぇ?」

会場係の俺たち数人がようやくありついた昼食をかきこんでる中、西畑がおにぎりをもぐもぐしながら首を傾げてる。
「あの部員たち、みんな彼女だったんだよ」
「ええ!全部ですか??」
「んまぁ、俺にもよくわかんないけど。それをたった一人にしぼるってんだから、叫びたくもなるかもね」
「たった一人って、誰なんでしょうね」
「へ?」
「誰かってのは言ってませんでしたよね」

…たしかに。
あの茶髪女子かなぁ。ピンとこないけど。

「それよか午後のミスコンの準備しないと」
時間がないからと昼食の片付けを促しているところに、勢いよくドアが開いた。

「二宮くん!!」

飛び込んできたのは由里子ちゃん。
由里子ちゃんは、びっくりしてる俺の腕を掴むと、「早く!こっちに来て」と外へ引きずり出した。
「え、え、なに!?どうしたの」
「大変なの!」
血相変えた由里子ちゃんが俺を生徒会用の倉庫に押し込む。そして置いてあったピンクの塊を差し出した。
「これ着て」
「は?これ…うさぎの着ぐるみじゃん」
由里子ちゃんが宣伝に使うって言ってたよな。
「二宮くん。よく聞いて」
真剣な瞳に俺は大人しく着ぐるみをかかえた。

菅田の爆弾発言は、今一番勢いがあったあの茶髪彼女を激昂させたらしい。
しかもどこから耳に入ったのか、菅田が俺にキスしたことまで知ってしまって、俺が菅田の「本命」だと思い込んでるという。

「俺ぇ!?!」

なんでそうなる!?
そんなわけないだろ。

「あの子今、あなたのこと探してるの。何やらかすかわからないから、とりあえずこれ着て私のフリをしてて」

由里子ちゃんはそう言って配るはずのミスコンのビラも手渡してくる。
「あの子も悪い子じゃないのよ。今はちょっと頭に血が登ってるけど落ち着けばなんとかなると思うの。それまで私隠れてるから」
そこに一緒に宣伝する実行委員の女子が来て、あれよあれよという間に俺はうさぎに変身していた。
「いや、でも…」
「喋っちゃダメからね」

俺はピンクのうさぎになって倉庫から放り出された。デカい頭で前がよく見えない。
「行くよ」
もう一人の実行委員女子に手を引かれて、どうすることもできずよちよち歩き出す。


なんだよこれ。
嘘だろう!?

知らず心の中でまーくんに助けを求めてた。