こういう時に限って、誰かしらやってくる。
間が悪いというか、最悪のタイミングというか。えてしてそういうものだけど。
入口には例の茶髪の彼女。
ポカンとした表情だったのが、みるみる紅潮して眉がつりあがる。
「や、これはちが、ちがう…」
菅田を突き飛ばして起き上がるも、わななく彼女の唇がなにかを発しようとした。
その瞬間彼女を押しのけて、なんとまーくんが入ってきた。
「まーくん!?」
ベッドから転げ落ちた菅田のことも、声を出すタイミングを逃した彼女も放ったらかしで、まーくんは大股でベッドまで近づいてきた。
「おなか痛いって、保健室行ったって松潤が」
「え、あっ、うん」
「昨日治まったんじゃないの?なんで黙って先に学校行くかな!?」
そう、今朝は一人でさっさと出かけたんだ。だって俺、ムッとしてたんだもん。
調子悪いとか言うとまたごちゃごちゃうるさいし。顔合わせたくなかったから。
「ねぇ、聞いてんの!?」
なんだよ。なんで怒られなくちゃなんないの。
えらい目にあってんのは俺じゃん。
「誰のせいだよ!」
思わず言い返したら
「そりゃさ、俺がかずのなか…」
うわあああ!速攻頭をはたく。
何言い出すんだよ、こんなところで!
バカじゃないの。
「いてっ、なんだよもう」
「なんだよじゃない!」
「心配してんだろっ」
「あの〜」
「「なに!?」」
遠慮がちに話しかけてきた菅田に、二人して返事をすると、菅田はにっこりした。
「ええと、元会長の相葉先輩ですよね。
いや〜、学年違うのにお二人めっちゃ仲良いんですね。なんかうらやましいな〜」
「お、幼なじみだから…」
そう言う端から、顔が赤くなるのがわかって俺は焦った。幼なじみは嘘じゃないけどほんとはそれだけじゃない。
でも付き合ってるなんて簡単に言えないよ。
菅田はわかってくれるかもしれないとは思うものの、実は違うかもしれないし。
だいたい由里子ちゃんの好きな人が俺の恋人だなんて知ったら菅田は混乱するだろう。
「なによ、これ。わけわかんない」
すでに混乱してたらしい茶髪の彼女は
「そこの、小さい子!あんたはなんなの!?」
ビシッと漫画の書き文字みたいな勢いで俺を指さした。
え、俺?小さいって、あんまりじゃないの。
…などと言い返せるわけもなく、庇うように出されたまーくんの腕に無意識にすがりついた。
「あんたはなんで菅田くんに付きまとうのよ!?どういうつもり?」
「ええ!かず菅田に付きまとってんの?」
「ちが、そんなわけ」
「待ってまって、落ち着いて…」
彼女がわぁわぁ言い出したのを菅田が止めに入ったところで保健室の先生が戻ってきた。
「あらあら、なんの騒ぎ?」
先生が「具合が悪い子がいるのだから静かにね!」とまーくんと彼女を追い出し、俺と菅田をベッドに押し込んで、保健室に静寂が戻った。
「相葉くんも怒ったりするのねぇ。あんな顔初めて見たわぁ」
先生はヘンなことに感心する。
そりゃまーくんだっていつもニコニコ笑顔じゃないもん。テンションだって高いばっかじゃないし。
「なんかごめんね。いい子なんだけど思い込みが激しめなんだよね」
菅田がカーテンのすき間から小声で謝った。