地震のせいもあったとはいえ、設計にミスがあったことが発覚したアーチは、大幅なテコ入れがなされる事となり一気に忙しくなった。
生田と西畑も駆り出され、俺は二人の分まで仕事が増えるし。帰りも遅くなるし。
そのうえ、なんだか頼りない映画研究部の部長に変なこと頼まれるし!
家に帰るともうバッタリ寝るだけみたいな毎日で、まーくんともほとんど話しもできない。
そんな放課後。
生徒会室でプリンターのインクを取り替えていたら、アーチ製作に行っていたはずの生田がスススとそばに寄ってきた。

「おまえさぁ」
「なに?」
「実行委員の吉高と付き合ってるってほんと?」
…………
チョットナニイッテルカ
ワカラナインダケド?

俺は生田の顔をまじまじ見つめた。
「そんなわけないだろ。なにそのガセネタ」
「だって噂になってんだぞ!あの美人の吉高サンと付き合うなんて、そんなの羨ましすぎる。ずるいずるいぃ」
「だぁかぁらぁ!付き合ってないっての!」

生田は疑い深い目で俺を見据える。
そりゃ俺がまーくんと付き合ってることを知ってるのは潤くんくらいだもんな。あとはしょうちゃんか。
「おまえ、吉高となんかプレゼントやり取りしたりしてるだろ。ラブラブだって噂だぞ」
えええぇ。
プレゼント?なんかしたっけ?
そこではたと思い当たる。
この前怪我した時、由里子ちゃんが自分のハンカチで拭ってくれたから、姉ちゃんに頼んで新しいハンカチを買ってもらったのを返したんだった。
だって血だよ?他人の血がついたのなんてキモチワルイでしょ。洗ってもとれないしさ。
姉ちゃんがはりきるから、なんかそれなりのいい?ハンカチだったらしくて、由里子ちゃんが驚いてお返し持ってきたんだ。
「ほんとにそれだけ?」
「ホントにそれだけ」
生田はなぁんだとそばにあった椅子に座り込んだ。それはそれでつまらないとか言って、なんだかなぁと俺は呆れて苦笑した。
ぐたぐた言ってる生田を置き去りにして、さっさとプリンターが吐き出した配布物を手に、俺は菅田のいる軽音部をめざした。

だいたいさ、由里子ちゃんが好きなのは俺じゃなくてまーくんなんだから。
みんなわかってないなあ!