俺を抱いてるまーくんの腕が急に重くなった。
規則正しい呼吸音。
そおっと後ろを窺うと、明らかに眠っている気配。なぁんだとちょっと気抜けした。
ガッツリ抱え込まれて動けないし、暑いし。
けどじっとしてた。
まーくんは俺のヒーロー。
そう思うだけでドキドキする。
でもこんなすごいヒーロー、俺だけが独り占めしていいのかな。
「俺のまーくん」だもん、いいんだよね?
この「俺の」という言葉でふと思い出した。
以前巻き込まれた西畑の女友達のストーカーが、彼女のことを「俺の物」呼ばわりした時のこと。
俺は腹が立った。何言ってんだよ、ふざけんなよ、おまえの物じゃないだろって。
でも……「俺のまーくん」も結局同じなの?
あんな奴と同類!?
ヤダヤダ、そんなわけない。
さっきまでの甘いドキドキは、不穏なドキドキに変わっていた。
いや違う。あいつとは違う。
もしまーくんが、俺ではない本当に守るべき人に出会ってしまうような事があったら、俺はその手を離そう。まーくんの幸せが一番だもん。
そうだそうだ、そうしよう。
気がついたら泣いてた。
小さくしゃくりあげると、まーくんがピクリと反応した。
「…ん、え?どしたの、なに泣いてんの」
半分寝ぼけまなこで、のしかかるように覗き込んでくる。
「わか、んない」
「わかんない?わかんないのに泣いてんの?」
「うん…」
「そっかぁー」
まーくんは俺をギュッと抱えなおすと、後ろ頭におでこをぐりぐり擦りつけた。
「大丈夫、大丈夫」
って、なにが大丈夫なんだよ。テキトーなんだからさぁ、もう。
そう思いながらもなんだか笑えてきて、まーくんの腕に鼻水をくっつけてやった。