気がつくと、作りかけのアーチが俺の足元数cm先に倒れていた。自転車が下敷きになってしまっていて、前輪が歪んでいるように見える。
俺自身はまーくんに抱きかかえられた状態で、二人で座り込んでた。
「……まぁ…くん」
「かず、大丈夫?どっか痛くない?」
俺は怖かったという気持ちにまだ行き着けず、ただただ驚いていたから、呆然とまーくんの顔を見上げた。
「んと、…ヘーキ」
まーくんはくしゃっと笑うと「びっくりしたねっ」と頭を撫でてくれた。
ありがとって言おうと思うのに、言葉が頭から抜け落ちてしまったのか出てこない。
その間にアーチ係の面々が駆け寄ってきた。
「二宮くん!」
その中に由里子ちゃんもいた。
真っ青な顔で、「ここ、ここ血が出てる!」と俺の腕にハンカチを当ててくれた。
痛くはなかったけど、飛んできた木の破片が当たったみたいだ。
ふと思い出した。前もこんなふうに溶けたアイスを拭ってくれたっけ。
まーくんが俺を保健室に連れていくのを、由里子ちゃんはハンカチを握りしめて見送ってた。
保健室に着くまで、まーくんは俺の背中をぽんぽんしながら「びっくりしたねぇ」と繰り返していた。
その手が温かくて、優しくてなんだか泣きたくなっちゃった。
そのあと、まーくんは自転車を修理に持っていくと言うので、風間が呼び出され俺を自転車に乗せて送るはめに。
「俺もそれなりに忙しいんですけどー!」
とかブツブツ言いつつも、風間はきちんと連れて帰ってくれた。
ベッドに転がっていると、頭の中でアーチが倒れてくるところが勝手に再生されて今更ながらゾワゾワした。
あの瞬間、まーくんは怯まず俺を抱えて飛び退いたかと思うとマジですごいと思う。
まんまヒーローじゃん。
いつだって助けてくれる俺のヒーロー。
家に帰る前に様子を見に寄ってくれたまーくんは、自転車を買い替えると言う。
おとなしい俺を見て、
「かずはすばしっこいから避けられると思ったんだけどさ。どしたの、鈍っちゃった?」
とか軽くイジってくるから、俺は拗ねて寝返りを打ち背中を向けた。
お礼言おうと思ったのに!
するとその空いた空間にまーくんが潜り込んできて、背中から抱きしめられた。
「ちょっ…」
「なんもしないって。やっぱり熱っぽいのかなぁ?」
しばらくそのまま二人でじっとしてた。
背中にまーくんの鼓動を感じて目を閉じる。
「……ありがと、助けてくれて」
やっと言えたと思ったら
「かず、かぁわいい!シたくなっちゃうな!」
って、なんもしないって言ったじゃん!
「嘘、うそ」と笑ってるけど、ほんと油断ならないんだから。