放課後、生徒会室に行く気にならなくて学食に寄ったら、菅田にバッタリ会った。
「なにがいい?」
ジュースをおごってくれると言うのでほいほいついて行く。
菅田は買った冷たいペットボトルを頭に押し当てて「痛ぇ…」とつぶやいた。
「頭痛?」
「いや、由里子ちゃんにシバカレた」
いつぞやのゲンコツを思い出して、苦笑いの菅田がちょっとだけ気の毒になる。
そこでふと思いついて言ってみた。

「そんだけ本気で怒るってことはさ、実は菅田くんのこと好きだったりして?」
「それはないな〜」

俺としてはそうであって欲しいという期待を込めて聞いたんだけど、あっさり否定されてしまった。

「なんでわかんの?」
「だって前に振られたから」
「えぇー。じゃあやっぱりまーくんかぁ」
「まーくん?」

俺が漏らした言葉に菅田が反応する。
慌てて訂正。前の生徒会会長相葉雅紀だと言うと、菅田は意外だったのか目を丸くしている。

「すごくかっこいいって言ってたよ」
「確かにイケメンだった気がする…」

菅田はまだ話したいみたいだったけど、噂をすればなんとやら。
学食の窓からまーくんの姿がチラリと見えたから、俺はジュースのお礼を言うなり素早く学食から抜け出した。
もー!めんどくさいな。「菅田禁止令」ってなんだよ、勝手にさぁ。
…と思ってるけど口には出せない。
おとなしくまーくんに捕まって自転車置き場まで連行される。
「具合悪そうだって松潤も言うしさ、迎えに行ったのにどこにも居ないしっ」
そんなの知らないし。
…ってのも言わないけど。
生返事しながら自転車の後ろに乗った。
背中の温もりが愛しいのに、妙な反発心が心を支配してる。
そんな自分にちょっとばかり自己嫌悪。

自転車が校門のそばで制作中のアーチに差しかかると、また差し入れをしている由里子ちゃんの姿が目に入った。
胃の底がスーッと冷える。
「あ、この間の子だ。えっと名前…」
まーくんが俺を振り返った時、どぉんと足元から突き上げられるように地面が揺れた。
自転車がバランスを崩して二人してよろめく。

「危ない!!」

誰かが叫んで顔を上げたら、作りかけのアーチが俺たち目がけて倒れてきてた。
スローモーションのようにゆっくりと、陽の光を遮りながら傾いてくる。
俺は呆然とそれを目で追っていた。