「あ、お、はよう」
挨拶されたまーくんは、戸惑いつつも笑顔を返し、声には出さずに(誰?)と俺の顔を見た。
「文化祭実行委員2年の…」
口を尖らせて答えかけて気がついた。
あれ、名字なんだっけ?
「2年の吉高です、会計やってます。相葉先輩!コンテスト見に来てくださいね。ていうか、先輩もエントリーしません?」
げげげ、何言い出すんだよ!
驚いてしがみつく腕に力が入って、まーくんが「うぐっ」と変な声を漏らす。
「ええと、出ないけど、当日委員会室に差し入れ持っていくよ。なにがいいだろな〜」
まーくんはテキトーに話を合わせながら、俺と由里子ちゃんを交互に見た。
それまで俺のほうを全く見てなかった由里子ちゃんが、キュッと視線を向けてきた。
ま、負けるもんか。
って…なんの勝負だよ。
「二宮くん。私、校庭ステージの出し物の宣伝担当になったの。ポスターとか準備しなきゃならないし、いろいろよろしくねっ」
まさに花が咲くような笑顔で手を振られた。
俺が「おぉ」とか「うぅ」とか答えているうちに、ぺこりとお辞儀をして校舎に入っていってしまった。
それを見送っていたまーくんが一言。
「めっちゃキレイな子だったね!」
……………負けてんじゃん!
いや勝負じゃない。勝負じゃないのになんでだか負けた気分。
腹が立ってまーくんの頭をはたく。
「いてっ!なんだよもうー!」
俺は答えずに、さっさと自転車から降りて教室へ走った。
これまで漫画でもアニメでも、それこそエロ本でも、どの子が可愛いとかタイプだとか胸が大きいほうが好きとか、いろいろ聞いてきたけど、所詮カンケーない女の子達だった。
だからたいして気にせず聞き流せた。
でも…やっぱりリアル女子は圧倒的で。
実際美人なんだし、俺だってキレイだって思ったんだから、ごく当たり前の反応なのに。
走ったらフラついて、椅子に引っかかり机に倒れ込んだ。
「ニノ!?」
先に来ていた潤くんが飛んできて、重いリュックをおろしてくれた。
「大丈夫?顔色悪いよ」
「…ヘーキ」
平気なんかじゃない。
消えたと思ったモヤモヤが、また俺の中で燻っていた。