「おかえりぃ」

うちに帰ると、なんでだかまーくんが台所で夕ごはんの準備を手伝ってた。
「ゆうの友達が泊まりに来ててさ、うるさいんで避難しに来た」
受験だと言っても夏休みだし、遠慮するなと言ったら早速連れてきてさぁとブツブツ言うけど、まーくんの目は笑ってる。

やっぱり、こっちのマサキのがいいなっ

うれしくなって、肩に頭をぐりぐりこすりつけたら「なぁに笑ってんの」とくしゃくしゃされた。


夕食後、部屋で菅田のことを話した。
まーくんはやっぱり潤くんみたいに眉をぴくりと上げて、「ふぅーん」と言った。

「知ってんの?菅田のこと」
「あのねぇ、かずが知らなかった事のがびっくりだよ」
「へぇえ?」

去年の文化祭で一人で弾き語りライブやって、一躍有名人になったんだって。特に女子に大人気であっという間にファンクラブができ、それがそのまま軽音部になったとか。

「すごい盛り上がってたのに、イベント会場見なかったの?」
「えぇー、だってさぁイベント会場ってミスN高とかやってるとこでしょ」

もちろんまともなコンテストではナイ。むくつけきメイドさんとかオソロシゲな女王様とか。
クラスメイトにお前も出ろとかけしかけられてチョー迷惑だったから、会場の校庭には近づかなかったもん。まったく他人事だと思ってさぁ。

「そんなこと言われてたの!?誰に!?」
「え、誰ってクラスの半分くらい?」

とたんにまーくんの眉間にシワができる。
強引に膝の上に座らされた。
や、去年の話だけど?
「今年はほら、生徒会で忙しいし。そんなことないよ」と言うと抱き寄せられる。

「やっぱ生徒会入ってよかっただろ?」

なんかズレてる気もするけど、結果的にはそうなのでおとなしく「うん」と答えといた。
しばらく黙ったままくっついて、お互いのぬくもりを感じていた。
まーくんの匂いに包まれて安心する。

「ギター習うんだ?」
「習うって言うか、ちょこっと教えてもらう感じかな」

しばらく考えていたまーくんが言った。

「あんまし影響受けんなよ」

意味がわからなくて「どういうこと?」って聞きかけた言葉は、まーくんに唇ごと食べられてしまって確かめられなかった。