「空っぽなんかじゃないよ?」
かずくんがじっとぬけがらを見つめながら静かに言った。
「あ、今は中身ないから空っぽなのかもしれないけど…。ここにはセミさんの夢と希望が詰まってたんだから、これは夢と希望の入れ物なんだよ」
それを聞いて俺もぬけがらをじっと見た。
「そんで、またこれと同じ入れ物が地面の下にいっぱい埋まるの!すごいよね。地面の下に夢と希望がいっぱい!」
だよね?とかずくんが俺と目を合わせる。
俺はハッとして、うんと頷くので精一杯。
言葉にすると泣いてしまいそうだ。
何年も何年も地面の下に潜ってるセミ。
いつかいつかと願ってるだけかと思ってた。
苦しくて外に出る事ばっかり考えてると思ってたんだ。
地面の下にも夢と希望が詰まってるなんて。
虫が苦手で、ぬけがらすら触れないのに。
そんなふうに考えてくれるかずくんが愛おしくてたまらなかった。
宿題を仕上げたかずくんとふざけっこしていたゆうくんが、「あ」と俺を見た。
「母ちゃんにちゃんと宿題終わらせてるか見て来いって言われたんだった。できた?」
「だいたいできてる」
「そんなこと言ってぇ、どうせかずくんに手伝ってもらってんだろ、その書くやつ」
うるさいな!
年々生意気になってるよ。
「まだ夏休みは終わってないだろ、焦らなくていいのっ」
そう。
焦らなくていい。
これからだよ。
だって、いつだって一緒にいる。
いてくれる。
この手は離さないから。
楽しそうに俺に笑いかけるかずくんを見て
そう思った。
おしまい