「どど泥、ついてるって!」
慌てて手を引っ込めようとするのに、かずくんは「痛そう…」と言って離してくれない。
小さな舌でそっと傷を舐めてる。
うわうわうわ。
顔どころか、全身から火が出そう。
気づかれないように必死で言葉をつなぐ。
「こわ、こわい思いさせてごめんね」
「ん?こわくないよ?」
「虫見た時はこわかったけどさぁっ」て顔をしかめて見せて、俺の手を持ったまま首をひねるようにして見上げてくる。
「まーくんと手ぇ繋いでるとこわくないっ」
そう言って満面の笑み。
俺はたまらず強く抱きしめた。
「俺が守るよ、絶対守るからっ」
かずくんは「痛いいたいっ」って笑ったけど、俺は腕を緩められなかった。
雨はなかなか止まなかった。
このまま止むのを待つべきか、駐車場に向かうのがいいのか迷う。
だっていつ止むかわからないんだ。
遠くで雷も鳴り出したし。
かずくんだって不安になるよな。
どうしよう…。
動いた拍子に、上着のポケットがカサコソ鳴る。なんだっけと手を入れると、ソーダ味の飴が二つ出てきた。
乗り物酔いのおまじないの飴だ。
ちょっと考えて封を切る。
朝ごはんも食べてないし、かずくんお腹すいてるよね。俺は全く食欲ないけど。
「かずくん、あーん」
きょろんと振り向いたかずくんが、ヒナみたいに口を開けた。
その小さい口に飴を入れてあげる。
まーくんは?って顔をするから、俺も食べてみせると、んふふと満足そうに笑った。
口の中あっちこっち飴玉を転がしながら
「おいしいねっ」
うん。今の俺には味なんかしないけどね。
かずくんがおいしいならいいんだ。
その時。
遠かったハズの雷が大きな音で鳴り響いた。
あんまり突然で、2人してビクッと跳ね上がってしまうくらい驚いた。
ヤバい、雷の時って大きな木の下はダメじゃなかったっけ。
「かずくん、急いでここ離れるよ」
そう言って立ち上がろうとしたら、かずくんが大粒の涙をポロポロこぼして泣いていた。
ええ!?どうした?
あ、雷か?びっくりしたもんな。
「かずく…」
「あめ、のみ、飲みこんじゃったぁ」
マジか。