あさっての方向に走り出したかずくんを追いかけた。
足が滑ったのか、斜面をズルズル滑り落ちるのが見えたから、俺もスライディングするみたいに後を追う。
「かずくんっ」
追いついて腕を掴むと、前に回り込んだ。
かずくんは涙でいっぱいな瞳で、やみくもに抱きついてきた。
「ごめんね、ごめんね…」
ひたすら謝る。
情けなくて俺まで泣けてくる。
泣いてる顔も可愛いだなんて思った自分を殴りたい。バカな自分を呪った。
抱きしめてた腕をゆるめて、かずくんの涙と鼻水を上着の袖で拭いてあげた。
ケガがないか見ようとして、かずくんがリュックを放り出さずに持っててくれたことに気がついた。
「リュック…持っててくれたんだ」
ありがとって頭を撫でたら、ようやくえへへと笑ってくれた。
胸がいっぱいになる。
掴んでたはずのカブトムシはどっかに行っちゃうし、あちこち泥だらけ。
かずくんも汚れてたけどケガはないみたいでほっとする。
雨も降ってるし、早く戻らないと。
立ち上がって辺りを見回す。
滑り落ちた斜面を登るのはちょっとムリそう。
迂回してなんとか駐車場にたどり着ければと、リュックを背負い直し、かずくんに手をさしだした。
手をしっかり握って歩いた。
かずくんはもう泣いてなくて、むしろちょっとワクワクしてそうな感じで、目が合うとニコッと笑ってくれた。
だから俺も笑い返す。
でも。
正直俺はパニクってた。
この方向であってるのか?駐車場にたどり着けるのか?本当のことは何もわからない。
まさかこのまま…とか嫌な想像しか浮かんでこなくて、心臓がもう止まってしまうんじゃないかというくらいバクバクする。
泣くな。
俺が泣いたらかずくんが不安になるだろ。
俺が
俺が守るんだ。
雨が強くなってきたから、大きな木の下に2人で座りこんだ。
俺の上着は防水性のものだけど、かずくんのはそうじゃなかった。冷えて風邪ひくといけないと脱がせて、後ろからギュウッと抱きしめる。
かずくんは大人しく膝を抱えて俺の腕の中に収まった。
時々、木の梢からパタパタと水滴が落ちてくるのをぼんやりと2人で眺める。
「かずくんごめんね」
「なんで?」
「…だって」
「カブトムシ、デカかったねぇ!」
かずくんはキラキラな瞳で俺を見上げてきた。
茶色の瞳に俺の顔が映っている。
そう、この顔が見たかったんだ。
でもそれは俺の勝手なワガママで。
なのにかずくんはいつだって優しいんだ。
涙で目の前がぼやけた。
「あ!」
かずくんが俺の手を取って「ケガしてる!」と
覗き込んだ。
手の指からじわじわ血が出てた。どっかで引っかけたんだな。それかカヤでも掴んだか。
全然気がつかなかった。
傷を目にしたら、今頃じくじく痛くなった。
「平気だよ、このくらい」
そう言ったのに、かずくんは俺の指を自分の口に突っ込んだ。
心臓が口から出るかと思った!