かずくんと朝走り始めて3日後。
いつもはおじいちゃんおばあちゃんしか見かけない公園のはしっこに、めずらしく同い年くらいの子がいた。
弟だろうか、ゆうくんとそう違わない男の子を連れている。
目が合って気がついた。あいつだ。
あの赤いビブスの6年生。
「……あ」
走るコースを変えようかと思ったのに、かずくんが目ざとく見つけて寄っていってしまった。
赤ビブスはかずくんを見ると、
「早起きだね」
と笑いかけてきた。
しかたなく俺はぺこりと挨拶する。
「これ、なぁに?ハシゴ?」
あああああ
俺は心の中で頭をかかえた。
基本かずくんは怖がりさんだ。
それなのに実は人懐こい。
なんでこのふたつが両立するのかわからない。マジでなんでだ!?
赤ビブスは「これはラダーっていって…」と説明しながら、そのハシゴみたいな道具の上を軽いステップで駆け抜けた。
規則正しい、それでいて素早い動き。
「すごぉい!」
かずくんの目がキラキラする。
俺だって素直にすごいなって思う。
この足でシュートを決めるんだろうな…。
弟のほうが「やってみる?」と誘って、かずくんが器用にステップを踏み、赤ビブスが「やるなぁ」と笑うのをぼんやり見ていた。
朝早いのにセミがたくさん鳴いていた。
「まーくん、行こっ!」
気がついたら、かずくんが俺の手を握って走り出していた。2人にバイバイと手を振ってる。
俺は挨拶もそこそこに、足をもつれさせながら後に続いた。
「すごいねすごいね〜」
かずくんが歌うようにくりかえす。
胸がちくちくして、知らず握る手に力が入った。
今日は日曜日で、かずくんちは家族でお出かけするからと、そのまま帰ってしまった。
ノロノロ家に入って、シャワー浴びる気にもならず、汗まみれのままリビングに転がる。
暑かったな…と床の冷たいところを探して寝返りを打つと、テーブルの下にカードが落ちているのが目に入った。
なぁんだ、ゆうくんの幼稚園で流行ってる昆虫のナントカっていうカードか。
やたら角のデカい、長い名前のカブトムシ。
そういやこないだのセミの自由研究、紙一枚に収まっちゃったな。いいんだけどさ一枚でも。
「まーくんすごぉい!」
セミの幼虫を捕まえた時のかずくんの声が
耳の奥で響いた。