「わっ!どうしたの、まさき」

早起きしてきた俺に、朝ごはんを用意してた母ちゃんがびっくりしてる。
「やぁねぇ、雨降っちゃうわ」なんて、超失礼だろ。ムッとして、顔も洗わずに靴を履く。
そのまま無言で公園へ向かった。

朝走ることにしたんだ。
運動会の総合リレーは、4年生以上の選抜メンバーで行われる。獲得点数が大きいから、赤組も白組も力を入れる重要ポイント。
リレーの選手に選ばれるかどうか、足に自信のある奴はすごく気になるところだ。

あの赤ビブスの6年生。4年の頃からぶっちぎりに足が速くて目立ってた。今年も選抜メンバーに選ばれるのはもちろん、アンカーだろうと言われてる。


早朝の公園では、おじいちゃんおばあちゃんがラジオ体操をやっていた。
ほんとは小学生も夏休みはラジオ体操あるんだけど、ほんの数日だけだし、めんどくさくて参加したことない。
邪魔にならないように公園の外回りを何周も走った。汗が目に入って、タオルを持ってこなかったことを後悔した。

別に目立ちたいわけじゃない。
そういうことじゃないんだ。
もちろん勝ちたいけどさ。

俺は黙々と走った。



汗でビショビショの顔を、やっぱりビショビショの半袖シャツ引っ張りあげて拭きながら、家の前まで帰ってくると、玄関先に人影。
かずくんが手にザルを持って立ってた。
「かずくん!」
振り向いたかずくんはパッと笑顔を見せる。
「まーくん、ほら見て!」
ザルの中には、はち切れそうに真っ赤なプチトマトがいっぱい。
かずくんが大事に育ててたプチトマト。
「やっと赤くなったあ!」
「うおぉ、すげぇ」
俺はうれしくなって、いっちばん大きいのをひとつつまんだ。かずくんの期待に満ちた視線に、ちょっとおおげさに口に放り込む。
思い切り噛んだら汁気がブフッと溢れて
「ひゃあ!」
「ん、ぅぐっは」
かずくんの顔にかかってしまって大慌てで謝るもへんな言葉になるし、口からトマトのヘタが転がり落ちるし、2人で大笑いしてしまった。
かずくんのプチトマトはすごく甘くて美味しかったよ。

そこで初めてかずくんは、俺が汗だくなのに気がついたらしい。
「どっか行ってたの?」
小首を傾げて不思議そうに俺を見上げた。