「相葉ちゃん、相葉ちゃん!」
夏休みの猛特訓で汗みずくの俺は、水道の蛇口の下に頭をつっこんでるところだった。
目を三日月にして寄ってきたのは、3年のムロ先輩。万年補欠の先輩だけど、面白くって2年の俺たちとも仲がいいんだ。
今日も部活帰りに、何人かのバスケ部仲間と一緒にうちで遊ぶことになってる。
なぜなら…。
「今日はDVD、手に入れたよぅ」
ムロ先輩には相当スケベな従兄弟がいて、時々そういうイケナイ本とかくれるんだって。
今日は俺以外の家族がばあちゃんちに行っていて居ないのをいいことに、俺んちでみんなで見よう!ってことになっていた。
いつもは部室の隅でコソコソ見たりしてるんだけど、部長や先生に見つかるとめんどくさくて。「中学生のくせに」とか言われてさ。
中学生だから見るんだろ、そこはさ。
タオルでいいかげんに頭を拭く俺に、ムロ先輩は更に擦り寄ってきた。
「なぁなぁ、あの子も呼ぼうよ」
「え?あのこ?」
「だからさぁ、おまえの可愛いニノちゃん!」
「はあ!?」
思いっきり振り向いたから、犬みたいに水しぶきが飛んだ。
「うわっ、ちょっとぉ〜」
「なにいってんすか!いち、1年生ですよっ」
「ええ〜だって冴えない俺達だけじゃつまんないじゃ〜ん。あーゆう可愛い……あ!」
ムロ先輩が俺の背中越しに指を指した。
慌てて振り返ってまたしぶきを飛ばす。
そこにはリュックを背負ったかずくんが涼しげに立っていた。
「部活終わったの?相葉くん」
「かずく…!」
かずくんの目がひんやりする。
「じゃないや、ニノ、だ。えっともう終わったの?帰る?」
図書委員の当番で学校に来てたかずくん。
クラスメイトに冷やかされて以来、絶対「まーくん」と呼んでくれない。
だから俺も「ニノ」と呼ぶんだけど、これが全然慣れない。慣れたくないのかもしんない。
オタオタする俺を押しやって、ムロ先輩がすかさず、かずくんに誘いをかける。
「ニノちゃんもおいでよ!いいもの見せてあげるから、ね?」
ダメだって!やめとけ!
止めようとする前に
「んじゃ、行っちゃおうかな」
かずくんは口角をきゅっとあげて、ニコッと頷いてしまった。
ダメだろ!そんな顔して!
案の定ムロ先輩のハートをズギュンと撃ち抜いてしまった模様。いくら顔見知りとはいえ、簡単に受け入れ過ぎだって!
とにかく2人の間に割り込もうとするも、
「こらぁ、相葉!頭から水をかぶるなって言ってんだろ。体育館がびしょ濡れになる!」
部長に怒られる始末。
後片付けをせかされる隙に、かずくんは「先、帰ってるね」と小さくバイバイと手を振って行ってしまった。
ほらぁ、ムロ先輩の顔がデレてるよ。
まったく、かずくんのバカ!
日が暮れる頃、バスケ部何人かで帰ってきた。
かずくんに「来んな」って電話する前にもう呼び鈴が鳴る。
早すぎだろ…。
ガックリと肩を落として玄関のドアを開けると、かずくんは風間ぽんと並んで立っていた。
「へへっ、来ちゃった」
「うおおぉ、風間ぽん!」
ひとつ年下だけどなにかと頼りになる風間ぽんと一緒なら少しは安心だ。
「わわっ、降ってきた」
外はいきなりの雨。いわゆるゲリラ豪雨ってやつかな。まだ音は遠いけれど、雲間で雷がピカピカしていた。
かずくんは大きな音とかが苦手だから、不安そうに空を見上げてる。俺が手を掴んで急いでドアの中に引っぱりこむと、ちっちゃい頃みたいにえへへと笑ってくれた。
「来んな」と思ってたはずなのに、もう「来てくれてよかった」になってしまってる俺。
いいのか、俺。
腹ぺこのみんなのために、母ちゃんにもらったお金でピザを買って帰ってきたんだ、が。
最初こそ取り合いになるくらいの勢いだったのに、俺が借りたDVDをセットした途端しーんとなり、みんなでテレビを凝視してる。
部屋にはピンクなあえぎ声が響く。
俺ももちろん、うわぁすげぇ…と見入ってた。
でもさ、こういうエロいやつって大勢で見ると、恥ずかしいのと興奮で黙ってられないっていうか、茶化さずにはいられないっていうか。
そのうち我慢出来ずにふざける奴、笑う奴、マジで反応しちゃう奴、隣のやつにちょっかい出してもめる奴…。
大興奮でぎゃあぎゃあ盛り上がった。
けど俺はすぐに気が気じゃなくなってた。
こんなのかずくんに見せていいのかな。
かずくんはどんな反応するんだろう…?
DVDの調子がイマイチでテレビにはりつかざるをえない俺は、一緒に盛り上がるフリをしながら、かずくんを目で追っていた。
あ、ちょっと!ムロ先輩、かずくんに触りすぎだって!!
困ったように笑いながら、軽くいなそうとするかずくんの顔が赤いのを見たら、居てもたってもいられず俺は移動しようとした。
バチン!
一瞬青い火花が散ったような気がした。
強い稲光と腹に響くような雷鳴の後、部屋は真っ暗になった。
「停電だっ…」
慌てる俺の目に、立て続けに光る稲光の中、コマ切れの動画みたいに、かずくんにのしかかるムロ先輩の姿が映った。
「……ん、や、だっ」
そんな声が聞こえた気がした。
部屋は「わっ、痛って」「誰だよ、足踏んでんのっ」とか大騒ぎで、俺は暗い中必死にこいつらをかき分けようとしてた。
「うぎゃあ!!」
ひときわ大きな声が上がった。
稲光でムロ先輩が飛び起きたのが見えた。
「冷たっ!誰だよ、ジュースこぼしてんじゃねーよ!」
「あー、すみません。暗くて見えなくてー」
風間ぽんだ。ナイスだ風間ぽん!
俺はその隙に倒れ込んでたかずくんを腕の中に抱き込んだ。
「かずくん大丈夫!?」
「まーくん…」
久々にまーくんと呼ばれて指先まで痺れた。
光る稲光に白く浮かび上がるかずくんの顔。
うるうる濡れた瞳。
僅かに開いた形のいい唇。
俺は我を忘れて、その唇に引き寄せられた。
ドカン!とひときわ大きな雷鳴にかずくんの身体がビクンと跳ねて、俺にしがみついてきた。
「んはは、くすぐったいっ」
そう言ってクスクス笑ってる。
どうも俺の唇は、かずくんの鼻頭に当たったらしい。俺は恥ずかしさに全身が沸騰した。
そこで唐突に電気がついた。
真っ暗なのに右往左往したからか、部屋の中はなかなかの惨状で、ジュースはこぼれてるし、食いかけのピザは落ちて踏まれてるし、母ちゃんにバレたらマジでヤバい。こんな落雷くらいじゃすまないよ。
とりあえずエロビデオどころではなくなって、みんなで掃除する羽目に。ジュースをかぶったムロ先輩には俺のシャツを貸し出した。
みんなが帰ったあと、かずくんは取れないピザの汚れをまだこすってくれていた。
「かずくんはさ、どう思う?ああいうビデオ」
「ん〜?ちょっとびっくりしたかな〜」
「そっか、そうだよな。なんかごめ…」
「相葉くんはどの子が好き?」
あ…、相葉くんに戻るんだ…。そっかぁ。
ガッカリして足元に目を落とすと、掃除が済んでからみんなで見たエロ本が残されてた。どの子がカワイイとか好みだとかそれなりに盛り上がったんだ。
「んと、胸の大きい子かな…」
「へ〜、俺もかな。あ、でもあんましデカいと牛みたいでちょっとコワイかも」
違う。
いや、胸の大きい子が好みなのはホント。
でも違うよ。
俺はかずくんがいいんだ。
胸が大きくなくてもぺったんこでも関係ないんだ。そんな些細なことはどうだっていい。
幼稚園の頃にした結婚の約束を、かずくんが忘れてしまったあの約束を、今日ほど思い出してほしいと思った日はなかった。
事故のコワイ思い出とセットになっていて、かずくんの中でストッパーがかかってるのはわかってるけど。
いつか、いつか絶対に思い出してほしい。
思い出せなくても、俺はお嫁さんにする気満々だけどね!
そうだ、ムロ先輩め。
明日にでも釘さしておかなくちゃ。
大事な大事なかずくんに、たとえおふざけでもあんなふうに触るなんて冗談じゃない。
といっても、当のかずくんはわかってるんだかわかってないんだか。
呑気にカーペットをゴシゴシしてる。
「もういいよ、それ。ゲームしよ!」
俺はかずくんに手をさしだした。
かずくんは俺の手を取ると、最高の笑顔でコクリと頷いてくれた。
今日見たどの女の子よりも可愛いんだよな、マジでさ。
ほんと、雷より眩しいゼ!
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今回お話で参加させていただいたむむにのと申します。にのあい寄りのニノ担です。
読んでくださってありがとうございます。
歌の題名と合ってないのはどうかお見逃し下さいませ💦「ら」ムズかった…(⁎×﹏×⁎)՞
普段はこの幼なじみの2人のお話を書いています。お時間ある方は覗いてみてね♡
楽しい企画、ありがとうございました!
最後になってしまったけど、
潤くん
お誕生日おめでとう🎉🎉🎉