夏の夕暮れはなかなか暗くならない。
ようやく西の空が赤から紫色になった頃、
俺とかずくんは近くの公園に来ていた。
カサコソカサコソ
足元で草が擦れる音がする。
「まーくん…、ほんとにいるの?」
不安そうな声に、俺はかずくんの汗ばんだ小さな手をぎゅっと握った。
薄暗い桜の木の下で、街灯を頼りに目を凝らすと…。
「あ!ほら、いたよ!」
地面にはいくつか小さな穴がポコポコ空いていて、その中のひとつに、ひょっこりと頭がのぞいてる。
俺はそれをそおっと摘んで、慎重にひっぱり出した。
「ひゃっ、あぁ」
かずくんが俺の腕にしがみつく。
街灯の明かりでも、その茶色瞳がうるうるなのが見て取れた。
「大丈夫だって!早く連れて帰んないと」
それはセミの幼虫。
これから木に登って羽化するヤツ。
うちに持って帰って観察するんだ!
夏休み真っ盛り。
小学生の俺たちにとって大敵なのが自由研究だ。毎年かずくんと一緒に取り組んでる。これまでテキトーな絵や工作で済ませてたけど、今年はもう4年生だし。
小学生の王道、虫の観察に決めたんだ。
今までやらなかったのは、かずくんが虫苦手だからなんだけど。
絵でも工作でも、かずくんのが器用だからさ。
今年こそ俺がいいとこみせないと!
そう思って選んだ。
でもさぁ、ホントの事言うと、俺もあんまし虫って得意じゃないんだよなぁ。
手に持ったセミのぬけがら…じゃないや、中身入りにちょっとゾワゾワする。
少しばかり後悔しかけてたら。
「まーくんすごぉい!」
しがみつきながら、かずくんが目をキラキラさせて俺の顔を見つめてた。
よっしゃー!!
これだ、これ!
心の中でガッツポーズ。
両手でそおっと幼虫を包むと、かずくんを腕にぶら下げたまま家まで走った。
うわっ!
手の中で思いのほか動き回る幼虫に歯を食いしばる。暴れないでくれよー!