「そうだ。あのさ」
クッキー食べる手をとめて、まーくんが俺を見た。クッキーは美味しかったけど、口の中の水分全部取られてもごもごする。
「大野さんが描いたあの絵ね、俺にくれるって言われたの。ほんとはかずに渡したかったみたいだけど、いろいろ思い出すのもイヤだろうからって」
「…ん、んぅ」
「けどさ。あれ本郷に渡そうと思うんだ」
思いがけなくて、なにか喋ろうとしたら思いっきりむせた。
咳き込む俺に、リュックから出したペットボトルを渡しながら、まーくんの大きな手が背中を撫でてくれた。
「なんで!?だって…」
本郷とはいろいろあって気に入らなかったんじゃないの。
「うーん、そうなんだけどさ。今回はあいつのおかげで助かったとこあったし」
「そりゃそうだけど…」
「やだ?」
えぇー。
本郷が俺を、絵の俺だけど、毎日見るんだ?
あいつってなに考えてるかよくわかんないから、なんか落ち着かない。
まーくんはいいんだ、それで?
返事せずにいると
「あいつの気持ちもちょっとわかるしさ。絵ならまぁいいかなって思って」
そう言って俺を膝の上に抱えあげた。
「俺には本物のかずがいるし!こうやってチューもできるしっ」
「はぁ?ちょっ…」
何言ってんだかわかんないまま会話が途切れた。
突然のノックに我に返る。
どこか芝居掛かった大きなノックの音。
「母ちゃんが、かずくん夕ごはん食べてくかって聞いてるよ!」
ゆうくんの大きな声に、俺はまーくんにしがみついたまま固まった。
今ドアを開けられたらヤバい。
「たべてく!食べてく、よね!?」
まーくんの声も裏返る。
心臓をバクバクさせながら慌ててシャツの前を合わせる俺。
ゆうくんは「へいへーい」と答えながら階段を降りていった。
どっと汗が吹き出る。
とりあえず見られなくてよかった。
見たくないよね、兄ちゃんと俺が…なんて。
心の中でゆうくんにごめんねって謝る。
「ヤバかったあ!もうちょっとでかずのエロい顔見られるとこだった。それだけはダメだかんねっ」
…………………は。
俺はもちろん、キチンと頭をひと叩きしておいた。