あのクソオヤジに触られた時の気持ち悪さが、まさに虫が這いずり回るような不快感がよみがえる。
頭の中がギュッと締めつけられる感じ。
息が詰まった。

「…かず?」

急に身を硬くした俺に気がついたまーくんが、心配そうに声をかけてくる。

違う
アイツじゃない

俺は歯を食いしばって、ぶつけるようにまーくんにキスした。ゔって唸ったから痛かったんだと思うけど、俺は必死にしがみつく。

違う
違う
まーくんだ

「かずっ…」
「触って!もっと触ってっ」


あとから考えるとなかなかにハシタナイセリフだったよね。可愛い女子が口にするとそれはそれでいいのかもしんないけど、俺じゃなぁ。
まーくんは戸惑いながらも、いっぱい触ってくれた。俺はその手の感触を必死で追いかける。
追いかけて頭に身体に刻みつけるんだ。

「まーくんっ」
「ん?」
「まーくん、まぁ、く…ん」

うわ言みたいに繰り返す。
まーくんは何も聞かずに、何度も「うん」と答えながら、きつく抱きしめてくれた。

こうやってまーくんの胸におさまってると、このまま溶けてひとつになりたくなる。
そうすれば、離れることも失うこともない。
でも、俺の事をじっと見てる姿も、優しい黒目がちの瞳も見ていたい。
……ワガママだな、俺。


俺は両腕をまーくんの首に巻き付けて、目を合わせた。

「俺、アイツのこと忘れたいんだ。だからまーくん上書きして。そんで、ひとつになろっ」

溶けてひとつにはなれないけど。
繋がることはできるんだ。
ほんの少しの間だけど。

まーくんの喉の奥からヘンな音が漏れた。
かすれた声で俺の名前を呼ぶと、そのまま押し倒された。