梅雨空の週末。
潤くんも一緒に3人でしょうちゃんちに向かう。しばらくお休みしてたまーくんのカテキョつまり勉強会もするんだって。
えぇー、マジ?
学校休んでた俺にも丁度いいだろって言われたけどさ、実際のとこ、すごく心配してくれた潤くんが毎日のように顔を出してあれこれ教えてくれたんだよね。やっぱり優しい、潤くんは。
しょうちゃんちに着くと、すでに大野さんが待っていて、俺の顔を見ると黙って俺の頭をわしゃわしゃした。
「ごめんな」
なんで大野さんが謝んの。
絵を描いただけだし、悪いのはあのクソオヤジだろ。
そう言ったらまた頭をわしゃわしゃされた。
勉強会が始まって30分あたりで俺はトイレへ。
そんで、潤くんがしょうちゃんを質問攻めにしてるのを横目で見ながら、するりと大野さんのところへ滑り込んだ。
大野さんは窓際のソファーで一人スケッチブックに向き合ってた。
素早くクッションを抱え込んだ俺は、ソファーの反対側の角を陣取る。手を止めた大野さんの視線を感じだから、小声で「休憩休憩」って笑っておいた。
それきり大野さんは静かに絵を描いてる。
それをぼんやり眺めてた。
「一人で寝るの、コワイんか」
気がつくと大野さんがこっちを見てた。
むう!しょうちゃんだな、余計な事言ったのってクッション越しに軽く櫻井翔を睨んどく。
「あーあ、俺は大昔の人間を恨むねっ」
「…なんだそりゃ」
「だってさぁ、せっかく2人くっついてたのに神様に怒られるようなことして二つに割られたんでしょ?くっついたままだったら、今俺困ってないもん」
この歳になって1人で寝られないなんて。
クッションに顎をのせてため息をつく。
すると大野さんがスケッチブックにさらさらと何かを描いた。
「なにそれ、サソリ?」
それは不思議な絵で、よく見ると背中合わせに重なったヒトらしく、手足が4本あり、跳ね上がった2本の足がサソリの尾っぽに見えたんだった。頭もくっついていて両側に顔がある。
「そんな姿だったみたいだったらしいぞ」
「へえぇ!そうなの?」
俺はまじまじと覗き込んだ。
見れば見るほど不思議な絵で、なんかちょっとコワイようなキモチワルイような。
「こんなんじゃお互い顔も見れないな」
「え…」
「ま、双子みたいなもんだから同じ顔なんだろうけど。俺はやっぱ見たいかな」
これが俺とまーくんだったら…。
いつも一緒だけど、顔も見れないの?
抱き合うこともできないってこと?
思わず問題集解いてるまーくんの顔を見た。
そんなのヤダ。
「二つに分かれてんのも悪くない気がするぞ。元ひとつだった2人の間にあるものが『愛』なんだって、本には書いてあった」
『愛』!!
その言葉にさすがに赤くなる。
そんな俺の視線を感じたのか、まーくんがひょいと顔を上げた。
「ああぁー!もうなにサボってんの!」
ちょっと目を離すとすぐこれだって、ズカズカやってきたまーくんに拉致られる。
俺は素直にまーくんに抱きついた。
思いがけない俺の行動に
「え?え?なにどしたの!?」
と驚きながらも、まーくんは嬉しそうだった。