いろいろめんどくさい事も減ってきて、だいぶ落ち着いてきた。
学校にも復帰したし、ほとんど知られてないのか俺の周りは静かだ。
日常が戻ってきたといっても良さそうなのに。
…実は厄介なのが残ってる。
俺自身にだ。
それは事件のあった日にすでに始まっていた。
あの日家に帰りついたのはもう日付を越えていて、うちの前までまーくんがついてきてくれた。ずっと手を繋いだまま。
玄関から半泣きの姉ちゃんが飛び出してきて、やっぱり「何やってんのよ!」って怒られた。
まーくんはそんな姉ちゃんをなだめたり、母さんに挨拶したりしてから、俺の方にくるりと顔を向けて
「じゃあね」
ゆっくり休むんだよと優しく笑った。
俺は「うん」って答えるつもりだったんだ。
なのに言葉にはならなかった。
手だって離そうと思ってるのに、勝手に力が入って離せない。
「かず?」
そして、気がついたら涙がポロポロこぼれてた。なんで泣いてるのか自分でもわからない。
まーくんは、包帯を巻いた手で俺の頭をくしゃくしゃしてから、ギュッとしてくれる。
ずっとそうしていたかったけど、時間も時間だし、母さんにうながされてようやく手を離すことができた。
振り返りふりかえり心配そうに帰っていくまーくんを見つめてると、追いかけたい衝動にかられて、自分に呆れてしまう。
どうしちゃったんだろ、俺。
明日にはまた会えるのに。
もうとっとと寝ようとしたんだけど。
どうしたって眠れない。
電気を消したら、ヘンなマボロシが見える気がするし、だからって電気をつけても今度は目が冴える。
どうしたんだ俺?
いやいや、あんな目にあったんだ、こういうもんなんだろ、普通だよなって…頭では理解するのに、モーレツに落ち着かない。
こんな時のために病院でもらったお薬を飲んでもみた。けど、眠れない。眠れないったら眠れない!
ちょっとぼーっとはしたんだよ。
でも頭の中では、今日あった事が勝手にエンドレスにリピートし続ける。
お薬飲んだ分、だるくなってかえって苦しくなっちゃった。
あとで先生に聞いたら、頭の中がカッカしてる時はそういう事もあるんだって。
苦しくて。
不安で。
真夜中だし誰にも言えず、一人で布団に潜って悶々としてるうちに夜が明けてきた。
俺はたまらず、御守りのように握りしめてたケータイで、まーくんにメールしてしまった。
ホントは声が聞きたかったんだけど、それはなんとか我慢できた。
メールも何度も打ち直して、ひとことだけ。
『夜更かししちゃった』
涙が出た。