今日は日曜日。
まーくんは全国模試を大手塾に受けに行ってる。暇な俺は昼過ぎまでゲームして、ふと思い立った。そうだ、1人であの絵を見に行くチャンスじゃん。
さっそくバスに乗って街中まで出かけた。
あの絵はまだウィンドウを飾っていた。
近づいてマジマジ眺める。
うーん、俺っちゃあ俺?だな。
顔は間違いなく俺だ。けど、雰囲気がなぁ?
一人絵の前で唸ってると、
「あら、見て!綺麗ねぇ」
通りかかった2人のおばさんが大野さんの絵に寄ってきた。振り返った俺を見て、おばさん達がハッとする。
「あらあら?」
「あらまぁ」
遠慮のない視線をぶつけてくる、興味津々のおばさん達。
俺は堪らず、その場から逃げ出した。
あぁなんか落ち着かない。
やっぱり引っ込めてもらいたいな。
うつむいて歩いてたら、本屋の前に来ていた。
…そうだ、漫画の最新刊を買っていこ。
そして2冊手に取って、ぼんやり考える。
まーくん、もう終わったかなぁ。
なぜだか無性に会いたくなってしまった。
駅前の塾で模試受けてるんだから、帰りにチラッと覗いちゃおと、小走りにレジに行って本を差出した。
「…あ」
目の前の、メガネをかけた店員を見つめる。
「なにそれ、変装してるつもり?」
普段かけていないメガネ越しに、無言で俺を見返したのは本郷だ。
幼稚園以来なかなか因縁深い。
「それとも目、悪いんだっけ?」
うちの学校はバイト禁止だからね。
もちろん知ってるんだろうけど。
本郷は俺の質問には答えず、淡々とレジを進めて本の入った袋を押し付けてきた。
「ありがとうございました」
「えっ、お金…」
そしてくるりと後ろをむくと、他の店員に交代を頼みカウンターから出てきた。
そのまま俺を押し出すようにして腕をとって、本屋のすみに連れて行かれた。
「べ、別にそんな事してもらわなくても、学校にチクッたりしないし!」
俺は腕を振り払うと、サイフからお金を出して本郷の着けてるエプロンのポケットに押し込んだ。そんなふうに思われるのは心外だもんね。
「…そっか。そうだよな」
そう言ったきり本郷は俯いてる。
まーくんのこと突き飛ばしてケガさせたり、へんな写真送りつけてきたり、けっこう迷惑な奴なんだけど。
どっか憎めないんだよなぁ。
俺は下から覗き込むようにして、小首をかしげた。
「なんか困ってんの?」
目が合った本郷の白い顔が赤らんだ。