母さんと一緒に入ってきたまだ若いお巡りさんの顔が、わかりやすく赤くなって、俺は青くなる。
母さんは口をキュッと引き結んで、大きな目でじっと俺を見た。と思ったら、ガバッと俺たち2人をまとめて抱きかかえて、わっと泣き出した。
「無事でよかった!!」
「うぅっ」
まーくんが嗚咽をもらして、一緒に泣き出す。
ほんとは俺も泣くとこなんだろうけど、こいつのせいで涙が引っ込んじゃったし。
途方に暮れてお巡りさんを見たら、まさかのもらい泣き!。
マジか。なんだこの状況。
俺は一人、ボーゼンとまーくんと母さんに抱っこされてた。



今日はとりあえず家で休んでくださいと言われ、後日事情を聴かれることになった。
俺は大丈夫って言ったのに、まーくんがおんぶすると言ってきかない。
「お姫様抱っこのがいいの?」とかオソロシイことまで言い出したので、大人しく背中におさまった。
タクシーに乗るまで、まーくんの背中の温もりを堪能する。やっぱ気持ちいい。


家に帰ると、まーくんがベッドまで手を引いて連れてってくれた。
食欲はまだなかったけど、母さんがお粥を作ってくれるって1階に下りてった。そこに次々と電話攻撃。学校からみたいだ。
まーくんはまーくんで、潤くんと電話でやり取りしてる。
あれから学校は大騒ぎだったんだろな。

ぼんやりと電話するまーくんの横顔を眺めてると、気がついたまーくんの手が俺の頭に伸びてきた。おデコを撫で、そのまま顔の輪郭をなぞるようにおりてくる。
俺はうっとり目を閉じた。
あぁ、俺ガチガチに緊張してたんだな…。
そんなことに今ごろ気がつく。
まーくんの手に自分の手を重ねて、やっともう大丈夫だと感じた。

すると、さっきまで何処か夢みたいに感じてた光るナイフが、頭の中でフラッシュバックした。あいつの血走った目…。
急に涙が溢れてきて、自分でびっくりする。
手の震えが伝わって、まーくんが電話を切った。大きな手で頭をわしゃわしゃしてくる。

「怖かったね。もう大丈夫だから」
「う、ん。うん」

怖かった。すごく。
小栗くんいなかったら、たぶん刺されてた。
でもそれより、あんな真っ黒な感情をぶつけられたのが、たまらなく怖かった…。

俺はまーくんの手にしがみついて泣いた。