楽しかった幼稚園生活も終わり、俺は小学生になった。
「俺」って言うのも板につき、ママのことも「母ちゃん」って呼ぶようになった1学期の後半。教育実習の先生がやって来た。
若くてかわいい先生にみんな興味津々で、休み時間にあれこれ質問していたら。

「みんなの将来の夢はなぁに?」

逆に聞かれて、サッカー選手だのパティシエだの社長だの、いろんな職業があがる。
そんな中、1人の女子が
「パパのお嫁さん!」
って言ったんだ。するとお節介な男子が
「はぁ〜?父親とは結婚出来ないんだぞ。知らないのかよ?」
「.今どきお嫁さんなんてさぁ。そんな女子いるんだね〜」
なんて混ぜっ返すものだから、男子と女子で険悪になって教育実習の先生をアタフタさせた。

そうなんだ。
この頃俺もうっすら気づいてた。
「お嫁さん」ってのは女の子がなるものらしいってこと。やっぱそうなんだ。
かずくんは、俺のお嫁さんになるって言ってくれたんだよ。…忘れちゃってるけどさ。

その時俺はハッとした。
幼稚園では、卒園アルバムに将来の夢を書いた。かずくんはなんて書くんだろう。
「まーくんのお嫁さん」とか書いちゃわないかな。忘れてるからそれはないか。いやでも、ゼッタイ書かないとは言いきれない…かも?
男の子なのに「お嫁さん」って書いちゃったらヤバいよね。でも忘れてるんだしさ。でもでも、ひょっとしたら…
あぁもう!モヤモヤするの我慢できない。
俺は学校終わると、ダッシュでかずくんちへ向かった。


かずくんは丁度帰ってきたところで、まだ制服姿だった。帽子もかぶってて。相変わらず可愛い過ぎる。
挨拶もそこそこに上がり込んで、俺はかずくんに将来の夢を聞いてみた。

「ん〜。野球の選手…かな」

……そうだよね。そりゃそうだ、うん。
よかったと思うのに、なんだか力が抜けてしまった。
「まーくんは?」
「え。えーと…俺も野球の選手?」
そうなの!?ってかずくんの顔が輝く。

「じゃあ、ずっと一緒にいられるね!」

耳を赤くして、うれしそうな満面の笑み。
はしゃいだかずくんは、俺の両手を握ってぶんぶん振った。
鼻の奥がツンとする。
頭の中がかずくんで埋め尽くされる。
俺はただ「うんうん」と頷いていた。



約束なんていらないのかもしれない。
こうして手を繋いでいれば、ずっと一緒の道が続いているのかも。
きっと運命なんだよ。
繋がってるんだよ、俺たち。


俺はかずくんのちっちゃい手をギュッと握り返した。















おしまいっ