僕のかずくんはちっちゃくてふわふわ可愛いから、よくカン違いされるんだけど、実は運動神経バツグンなんだ。足も速いし、ボール投げも上手。
幼稚園が終わったあと、園まで体操の先生が来てくれる体操クラブに僕らは入っている。
いつもは先に着替え終わってる僕が、かずくんのお着替えを手伝っていたんだけど、今日は手を出さずに見守った。
この頃かずくん、すごくがんばってるから。
でも結局ガマン出来なくて、赤白帽だけかぶせてあげた。かずくんはニコッと見上げてきて、僕は手をつないだ。
今日はマット運動と跳び箱だ。
先生がお手本として選んだのがあいつだった。かずくんにちょっかい出すあいつ!
たしかにぴょんぴょんとんで、上手だ。
僕は、年中さんの一番後ろに座ってる背の高い女の子にそっと聞いてみた。
「あの子サクラ組さんだよね?」
「かなたくん?そうだよ」
もともと園庭の向こう側にある、特別な小学校に行くためにたくさんお勉強してる園に通ってたんだけど、なんでだか年中さんからこっちの幼稚園に来てるんだって。
「運動が得意だからって、なんかエラソーなんだよね」
女の子は鼻の頭にシワをよせて囁いた。
「あ、でもね!こないだのかけっこで、かずくんのほうが速かったの!」
その時、跳び箱を終えて列に戻ってこようとしたかずくんが、あいつに押されて派手に転んじゃった。泣きだしたかずくんのそばに僕は走った。
「かずくん!」
両ひざが擦りむけて、血が滲んでた。僕の体操服のはじっこを握りしめて、かずくんはしゃくりあげてる。
かずくんのまぁるいひざにぷくんと滲む血が、紅いビーズみたい。僕はそのひざをそっと舐めた。
「かずくん、だいじょうぶ?絆創膏貼ろうね」
先生が来て、僕にくっついてたかずくんを先生のお部屋に連れていく。
かずくんは、何度も振り返りながら歩いて行った。遠くであいつが叱られてる。
僕はなんだかぼうっとして見送った。
口の中に残る鉄っぽい味。気がつくと手のひらに血の跡が残ってた。小指にサッとハケで掃いたような赤い線。
僕は赤い糸の話を思い出していた。