非常時における「常識」とは

また、事件後に伊藤さんが送った「お疲れ様です」というメールについて、被告側の弁護士は、そのようなメールを「被害者」が「加害者」に送るのは不自然と指摘。「一般社会の常識では」という言葉を使い、そのようなメールを送ることがありえるのかと伊藤さんに問いただした。

伊藤さんは「ありえます」と回答。性被害者の話を聞いてきた経験から、何が「常識」かを答えることはできないという答え方をした。

 

伊藤さんの言う通り、「性被害者」といっても、誰もが同じように被害後を過ごすわけではない。加害者を拒絶する被害者もいれば、被害後の混乱から加害者に自ら近づくような一見不可解な行動を取る被害者もいる。被害者にとって加害者が目上の立場である場合は特に、被害者が加害者を気遣うような態度を取ることがレアケースとは言えない。

 

被害者の言動の一つ一つを取り上げて、「本当の被害者ならこんなことはしない」と言い立てるのは、被害の実態を知らない人による典型的なセカンドレイプだ。

伊藤さんがメール時は混乱していたと回答すると、弁護士は「2日も経っていたのに混乱していたんですか?」と重ねた。

 

問われる法廷でのセカンドレイプ

性被害の申告率が低い理由の一つが、被害を訴え出れば、このように法廷でセカンドレイプに遭うからだ。被告を弁護するのが被告側代理人の役割だとはいえ、性暴力やセカンドレイプについての理解があまりに乏しいのではないかと感じられた。それは被告にとっても不利なことではないのだろうか。

 

双方の主張を闘わせるのが裁判であることは理解する。とはいえ、「強姦と準強姦のどっちが深刻ですか?」と被害者に聞くような質問は、2019年とは思えない。このような質問の出る裁判が繰り返されないことを強く願う。

 

(※2017年の刑法改正以降は強姦→強制性交等罪、準強姦→準強制性交等罪に名称変更。裁判では2015年当時の名称が使われている)