いや、俺、なに言ってんだ、また。」
ははははは、と受話器から笑い声がもれる。
雅「や、親切じゃないですって言おうとしたんです。はははは。悪いやつなんですよ!俺。」
「そんなこと、ないですよ。」
雅「じゃあ、また!体操教室で!」
「はい。
本当にありがとうございました。」
「とんでもないっす!じゃ。」
電話は切れた。
教室でひとり、友達の部活終わりを待っていた。
そこへ、カズは一人でフラッとやってきた。
和「おう。」
「二宮くん。
まだ帰んないの?」
人と話すことが苦手でドンくさかった私は同じクラスのカズになにかと助けてもらった思い出がある。
和「まあね。
お前だって、まだいんじゃん。」
「うん。」
和「帰んないの?」
「もう、帰る。」
和「ねえ。」
カズは窓際の私の座っている席のところまでスタスタ近づくと、隣におもむろに座ってそう言った。
和「お前さ、好きなやつとか、いんの?」
サッカー部の先輩の事が頭に浮かんだ。
入学式で私たちに生徒代表で挨拶してくれた櫻井先輩。
カッコよくて、大人な気がして、憧れてはいたけれど。
好きっていうのはまだよくわからなかった。
「まだ、いない。」
和「ふーん。そうなんだ。」
「うん。」
和「へー。」
「うん。」
和「でさ。」
「うん。」
和「聞かないの?俺には。」
ちょっとからかうように笑いながら、カズはそう言った。
「二宮くんは?」
和「俺?」
「うん。」
和「俺はいるよ。」
「そうなんだ。なんか、意外。」
和「そ?」
「うん。二宮くん、女の子に興味なさそうだから。」
和「そ?」
「2次元しか、興味ないのかな、って。」
和「んふふふ。まあね。」
ふたりで顔を見あわせた。
そして、また笑った。
和「やっぱさ、なんか気かわったわ。」
カズはそう言って、うつむいた。
和「今日言うつもりなかったんだけど、やっぱ言っとく。」
「うん。」
和「なんかとられたらやだからさ。」
「うん。」
和「俺が好きなのってさ、」
「うん。」
和「お前だよ。」
「え。」
和「俺さ、相田さんのことが好きなの。」
「そ、そうなんだ。」
急に顔をあげて、私の名前を口にしたカズをなんだか見たことない知らない男の子みたいに感じた。
「か、からかってるんじゃ、ないよね。」
和「なんでよ。」
「だって。
そんなの全然わかんなかったから。」
和「相田さん、ちょっと鈍いからね。」
くふふ、と笑ういつもの笑い声を聞いて、やっぱりいつもの二宮くんなんだって安心したように思う。
「ほんとに?」
和「うん。」
「ほんとにほんと?」
和「んじゃ、つきあってみる?」
教室に。
学校に。
この街に。
この世界に。
私とカズだけしかいないような、そんな不思議な感じがした。
「うん。」
正直、まだつきあうっていうこともよくわからなかった。
和「ふっ。いいのかよ。そんな簡単に。」
「うん。」
今を逃したら、いけないと思った。
和「明日になってやっぱやめる、とか。
そうゆうんの、なしだかんね。」
なぜだかわからないけど、確かにその時、そう感じた。
「うん。」
和「ほんとにね。」
私は自分のその直感を信じてみることにした。
「うん。」
和「んじゃ、決まり。」
「うん。」
カズは席を急にたった。
和「行くわ。」
私を見ずにそれだけ言って、ひとり教室を出ていってしまった。
次の日、学校でカズは私のことを茉沙希、と初めて名前で呼んだ。
