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「橋本さん、ちょっと」朝一で、課長に呼ばれる。

 

「例の研修生、うちで預かることになったから」
「指導役は高橋君になるけど、業務上のアシスタントと、不慣れな日本での生活に困らないよう君にお願いしたいんだ」

 

韓国の関連会社から半年間研修生を預かり、連携を深めよういうことらしい。その話は当然知っていたが……

 

「私がプライベートも世話するんですか」

 

「初めての試みで、会社側も準備不足なんだよ」

「まあ、頼むよ、橋本さん。韓国語習ってるそうじゃないか。ちょうどいいだろう?」

 

 それは口実で、そんな面倒なことを押し付けることができるのは、私しかいないからだ。後輩の桃花は、プライベート重視で、終業時間がくればさっさと帰ってしまう。不満はあったが承諾し席に戻ると、早速、桃花が話し掛けてくる。

 

「美月さん、大変ですね」

 

そんなことを言ってくるが、私が韓国語を習ってること課長に告げたのは桃花だろう。

まあ、でも長年つきあった恋人とも別れ、特にこれっといた趣味もない今、それぐらいの恩を売っておいてもいいかな?とも思う。

 

 

午後、韓国から研修生が到着した。受付で名前を告げてから、あっという間にそのことは全女性社員の間に知れ渡る。

 

――韓国からの研修生が来たって。しかも、物凄いイケメン!! ――

 

オフィスに入って来た彼は、確かに端正な顔立ちをしていた。背も高く、細身のスーツを上手に着こなしている。桃花なんて、ぽか~んと見つめていた。

 

「韓国から来ました、チャン・グンソクです。よろしくおねがいします」

 

 

 課長命令で、総務での手続き後、独身寮まで案内することになった。桃花は悔しそうな表情を浮かべてて、私はちょっとだけ笑ってしまった。

 

 

独身寮と言っても、ワンルームマンションを会社が借り上げているだけのもで、会社から乗り換えなしで行ける立地にある。ただ駅から少し遠いのと、さすがに彼をひとりで行かせるには無理があることから、お世話係の私が案内するらしい。

まあ、このまま直帰の許可もでたことだし、役得かな、とイケメン君の顔を横目で見ていた。彼はまるで小さな子供みたいに、きょろきょろと周りを見ては、気になることを質問してくる。しかも、流暢な日本語で。

 

「日本語、お上手ですね」

 

「ありがとうございます。高校のころから日本に興味があって……、でもまだまだです」

 

 爽やかな笑顔で返事が返ってきて、一瞬ドッキとしてしまう。

社内で彼を巡っての壮絶な戦いが起こるだろうな、と思うとちょっと気が重たくなった。でも、私には関係ない。しばらく、恋愛は止めておきたいし、ましてこんな競争率の高い男に手を出す気にはなれない。そう思うと、反対に気が軽くなった。

 

 

 彼の部屋は、長期出張用に一通りの家具が置かれている部屋だったから、とりあえず生活するには不便はない。電化製品とかの説明をして、部屋を案内したら私の役目は終わり。そそくさと帰ろうとしたら

 

「シーツとか買えるお店は近所にありますか? シーツにはだわりがあって。あと、お鍋も買いたいです」

 

「え?自炊するの?」

 

「じすい?」

 

「あ~、えーっと、お料理するんですか?」

 

「しますよ。冷蔵にあるものでてきとうに作るのが得意です」

 

「すごい。もしかしたら私より上手かも」

 

「料理は好きなので、僕の奥さんになる人はお料理できなくてもかまいません」

 

笑いながら彼が言う。

え?なんでそんな話に?と、またまた私はドッキとしてしまう。内心の動揺を隠しながら

 

「こだわりがあるなら、近所のお店では無理だと思います。お勧めのお店があるんですが、ちょっと遠いし、お一人では無理かも」

 

すると、彼はしょんぼりとした顔になった。その顔があまりに可愛かったから、思わず

 

「今度の土日で良ければ、ご案内しましょうか」と言ってしまった。

 

彼の瞳はみるみるうちに輝きだして……なんか、してやられた?とも思ったけど、もう仕方ない。