甘い物は好きだけど、粉っぽさが嫌いだった。
それに、子供あつかいされているような気になるのも好きじゃなかった。
彼女はいつも年上だった。
選んできた訳じゃないけれど、好きになったら年上というパターンだ。
「コーヒーを煎れようか? それともココアがいいかしら? 」
そんな風に言われると、ムキになってしまう。
一度だけ、それでもココアを作ってもらった事がある。
彼は年上だったけれど、恋人ではなかったから。
なぜか、彼には素直な気持ちで言える。
「泣いてるの? 」
「ゾンビ犬の事があまりにも不憫で……」
驚いた事に彼は、路上の名も無き野良犬の為にだって涙を流せるようだった。
「すまない。変な空気になってしまったな。ココアしかないが気にせずくつろいでくれ」
すっかり冷えてしまったマグカップをレンジで温めながら彼はそういった。
「昔飼っていたナッツという名前の犬によく似ていた。最後は皮膚病にかかっていて、ある日居なくなってしまったんだ」
「犬は死体を隠すらしいね」
「そうらしいね。首輪も鎖もついていたのに、不思議な話さ。痩せっぽちの犬で、ヒューヒュー息をしてたよ」
彼は、温め直したココアを僕に差し出した。
全然、嫌な気はしなかった。
むしろ、少し甘過ぎるくらいがちょうど良いとさえ思える心境だった。
大人がそんな理由で泣くというのが新鮮だった。
そんな事すら知らない自分はやはりまだ、子供だったのだろう。
身近な大人達は、そんな話をしてくれた事はなかった。
死についてや、本当の悲しみについて、また、本当の愛についても教えてはくれなかった。