米NSAが世界中の人々を監視している実態についてエドワード・スノーデンの行った暴露が世界中のメディアに受け入れられてきたのには、訳があります。

とても肝心なことなのですが、それは、彼がその物的証拠を現に示したことにあります。

 

『300人委員会』の著作で知られる元MI6将校のジョン・コールマンは、任地のアフリカでの諜報活動中、英国王室と諜報機関が「300人委員会」を中核とする闇の世界権力の忠実な道具であり、全世界人類と諸民族国家の敵である事実を偶然に入手した秘密文書によって知ったとしていますが、その入手したとする秘密文書を彼が公開したことは一度もありません。

 

しかも、ジョン・コールマンは、英ロックバンド・ビートルズをプロデュースしたのは、300人委員会の下部組織としてタヴィストック(人間関係)研究所であったとし、ビートルズの作品は彼らの手によるものでなく、タヴィストックの卒業生でテオドール・アドルノなる人物によるものだ、という奇怪な主張をしています。アドルノの12の無調不協和音によって、大衆の「環境的社会的騒乱」を創造するため、科学的に調子を整えられたものだと。

 

もし、ジョン・コールマンのビートルズに関する説が正しいとすれば、ビートルズの4人の創作活動を記録したアンソロジーの実録映像やその音源、いくつか存在するビートルズ主演の映画などもすべて「フェイク」であり、捏造であり、演技で芝居だとでもいうことになります。

 

しかし、4人で何度もテイクを重ねているセッション中の模様は、まさに彼らだけで音作りに励んでいたことを証明するものであり、また、ビートルズの音楽は時代を超えて今なお世界中の人々を魅了しており、それは彼らの作った音楽が歌詞のメッセージもあいまって、人々の心を感動させる素晴らしい音楽体験をさせてもらえるからにほかなりません。

 

彼らの音楽は、ジョン・コールマンのいうように、世界の若者を逸脱させ、麻薬を使うことに走らせるような効果が感じられるでしょうか。そのような企図のもとに作り出されたと、読者のあなたは一度でも疑いを抱いたことがあったでしょうか。悪を称揚する一部のパンクロックとは対極に近い音楽ではないでしょうか。その優れた音楽性だけでなく、愛や平和など、ビートルズが歌に込めたメッセージは普遍性を持っているからこそ、時を超えて人々に愛されているのではないでしょうか。

 

ジョン・コールマンの他の主張の信ぴょう性も疑うに足る、ビートルズの主要メンバーによる決定的な証言があります。

それは、作曲や作詞を担当したジョン・レノンが、自身が12歳から16歳にかけて知ったことで、ほとんど絶望に近い世界の真相について語っている映像が残されていて、それはおそらくロスチャイルド家を頂点とするユダヤ資本が世界の金融や主要産業を支配していることを指していると思われます。

 

聞き手に応える形での本人による証言映像は、YouTubeで視聴可能なので、読者は探してご覧になるとよいでしょう。たちどころに、コールマンの主張の一部が音を立てて瓦解していくのを目撃するはずです。主張する陰謀説中のひとつが、このようにいともたやすく瓦解して否定されるとなると、当然ですが他の主張の信ぴょう性も怪しいとなります。

 

「300人委員会陰謀論」が、それを唱えたジョン・コールマンなる人間の壮大な創作だったとしたら、それを真に受けた人々は大いに騙されたことになります。彼は自説の正しさを証明するためには、スノーデンのようにその証拠を世の中に示さなくてはなりません。スノーデンの出した物証は、その技術的な要素が客観面から疑いの入れようのないくらい圧倒的な真実性を帯びており、また、それは公開時の彼の身に危険が迫っていたという事実とも符合します。

 

朝鮮人女性に対して行ってきたといわれてきた従軍慰安婦の問題でも、証言者の捏造が明らかになりました。

証言を行ってきた吉田清治氏が自身の証言について虚偽であったことを認めたことから、2014年、それらを記事として掲載してきた朝日新聞社が、1980年から1994年までの掲載記事18本の取消しを発表しています。

 

物的証拠によらない口から出る言葉だけの証言など、結局、いかにあてにならないものかということです。

 

歴史学者でジャーナリストのニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)が、陰謀論が独り歩きしている言論空間での状況に警鐘を鳴らす説得力ある一石を投じているので、それに耳を傾けてみましょう。

 

ファーガソンは、著書『スクエア・アンド・タワー』でも展開した主張のなかで、19世紀後期以前には「ネットワーク」という用語がめったに使われていなかったと指摘し、歴史学の主流はネットワークの役割を軽視し過ぎており、他方、陰謀論者はネットワークの役割を誇張しているという―――

 

出典は、丸山俊一+NHK「欲望の資本主義」制作班著 『欲望の資本主義4 スティグリッツ×ファーガソン 不確実性への挑戦』(東洋経済新報社)です。

 

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「ネットワーク」をテーマとして歴史を見直してみるという発想が浮かんだ時、最初に取り組んだのは、「ネットワーク」という用語そのものの検索でした。調べてみると、その言葉はシェークスピアの戯曲にも出てきません。文字通り、漁猟で使う漁網を意味するものを除けば、19世紀までの英語には、その用語は一切現れませんでした。

 

ネットワークが今日の意味として使われ始めるのは、鉄道が登場してからです。大変、興味深いことです。ネットワークという言葉が非常に現代的な発想であることが分かったからです。

 

『スクエア・アンド・タワー』のもう一つのキーワードは「階層制(hierarchy)」ですが、その用語は原始キリスト教時代から使われている古い言葉です。私たちは長い間、社会について考える時、ネットワークではなく、階層構造として理解していたということを示しています。そして、それは長い歴史の中で、私たちに染み付いた考え方となっているのです。

 

19世紀は、自転車の車輪のような「ハブ・アンド・スポーク」型と呼ばれるネットワークの時代でした。日本でもそうだと思いますが、ほとんどの国の鉄道の路線図では、大都市の大きなターミナルがハブとなって、その中心から外に向かって放射状に路線が広がっている姿が見られます。東京駅がそうでしょう。テレビのネットワークの性質も同じです。中心に放送局があって、そこからネットワーク内のすべてのテレビに同じ信号を送るのです。

 

重要なポイントは、ハブ・アンド・スポーク型のネットワークは簡単に制御できることです。このネットワークは中心で全体を容易にコントロールできます。ネットワーク内のすべてのノードは、鉄道網であれば各駅、テレビ網であれば各受像機が、その中心に従属しています。

 

ところが、20世紀以降、特に21世紀には、さまざまな種類のネット―ワークが登場し、それらのネットワークには中心となるような制御要素があまりありません。インターネットの特徴は「分散化」です。つまり、中央が分散化しているということです。それが『スクエア・アンド・タワー』の大きなテーマです。

 

歴史の文献を検索すると、一つ問題があることに気付きます。著名な主流の歴史学者たちは、ネットワークの役割をほとんど無視し、階層制(hierarchy)に基づく考え方で記述する傾向があるのです。

 

それには、理由があります。古文書は歴史学者にとって金鉱のようなものです。過去に何が起こったか知るために、私たちは古文書を渉猟します。一方、古文書を沢山保有しているのは、政府や軍、大企業などです。それらは、非常に階層的な機関であり、情報を集中管理するために古文書を保管する傾向があります。結果、政府や伝統ある大組織の古文書を読めば読むほど、知らず知らずのうちに、歴史学者の過去に対する見方が歪んでしまい、階層制寄りの考え方になってしまうのです。

 

それに対し、分散型のソーシャル・ネットワークには、集中管理されている古文書のようなものは通常、あまり存在しません。そのため、その歴史を記述するのは、中央制御型の組織の歴史を記述するのに比べて非常に難しいのです。

 

歴史に非常に重要な役割を果たしたいくつかのソーシャル・ネットワークについて調べても、集中管理されている古文書は存在しません。歴史学の研究を始めた頃、私はユダヤ人銀行家のネットワークに強い関心を抱いていました。そのネットワークは19世紀から20世紀にかけてのドイツ、イギリス、アメリカの社会に強い影響力を持っていました。しかし、当時を知ることのできる集中管理された古文書はどこにもなく、あちこちの銀行を訪ね歩いて資料を探すほかありませんでした。

 

他方、ネットワークに関する記述をことさら好む歴史学者がいます。しかし、彼らは実は歴史学者などではなく陰謀論者なのです。インターネットで「Illuminati」と検索してみてください。陰謀論者たちの奇妙な世界に入ることができます。彼らは決まって、秘密結社があって、それが世界を操っていると主張します。「イルミナティ(Illuminati)」はダン・ブラウンの推理小説『ダ・ヴィンチ・コード』で有名になりました。イルミナティは18世紀の後半にドイツに実在した組織です。ネットワーク内ネットワークのような組織で、それは次第にフリーメーソンに浸透していきました。

 

私は著書でイルミナティの歴史を書きましたが、インターネット上にある情報の大半は、空想に過ぎません。陰謀論を好む人々には証拠にこだわらない傾向があり、彼らの関心は陰謀論の拡散にあります。そして、決まり文句は、陰謀は非常に巧妙であるため、「記録を残さない」です。つまり、単なるでっち上げなのです。

 

同じようなことは、ロスチャイルド家についても言えます。言うまでもなく、金融史上、最も有名な一族です。私はロスチャイルド家について上下巻の歴史書を書いていますが、インターネット上で「Rothschild」と検索すると、驚くことばかりです。「Illuminati」と同じくらい、馬鹿げた情報が蔓延しています。衝撃的と言ってよいほどです。

 

一方に、階層制の観点でしか歴史を記述できない古めかしい歴史学者がいて、首相や大統領、王や女王のことばかりを記述し、他方に、愚かな陰謀論者がいて、ロスチャイルド家とイルミナティが世界を支配していると言い張っています。これでは、歴史の真の姿は見えません。

 

そのような情報が氾濫する中で、中間の地点を見つけ出して、証拠を示してネットワークの役割を証明したり解説したりすることには困難が伴います。歴史のほとんどは、階層制とネットワークの闘いだったのですが、それを示すのはとても難しいのです。

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マス・サーベイランスだけでなく、ハイテク兵器による加害も、その黒幕はイルミナティだとする陰謀説に盲目的に飛びついてしまうのは正しいとはいえないことがお分かりいただけるでしょうか。攻撃をしている相手方は誰なのか、どのようなテクノロジーを利用して攻撃を行っているか等について、皆目見当もつかめないがために、そのような陰謀説に飛びついて信じ込んでしまうのは心情的にはよく分かりますし、その気持ちは理解できます。

 

しかし、それは、よくわからないものはすべて、NWO(ニュー・ワールド・オーダー、新世界秩序)の実現を企む、世界を牛耳る裏の支配者たちのせいにしてしまっているだけではないでしょうか。

 

たとえば、日本国内の加害者は、特に地上配備の装置というものが実際にあり、それが稼働して、加害電波が発射されているという現実があります。そのオペレーションを行っている者も、その指示を出している者も、間違いなく国内の日本人です。また、指示を受けて地上で動く、嫌がらせの歩兵部隊の人間たちがいます。彼らも日本語を話し、日本に居住するれっきとした日本人です(残念なことでもありますが)。地上部隊のなかに、日本で生まれ育った外国籍の人が含まれていたとしても、そのことは大きな問題ではありません。

 

なぜなら、ターゲットにした国民に危害を加えるこの犯罪の首謀者とは、治安と深い関わりのある日本の行政機関であり、内閣府をはじめとする政府機関の中枢も少なからずそれに関与していると考えられるからです。だからこそ、特定秘密保護法を作ってその中に、ハイテクを利用した徹底した特定個人の監視と電子拷問の手法を秘密指定して保護し、憲法違反が明白なだけに公にならないように隠し通そうとしていると思われます。

 

加害者は遠い国外にいる国際金融資本家らだとしてしまうことで、現実にこの国の中で攻撃に関与している加害者たちを利することになりはしないでしょうか。イルミナティ陰謀説は、加害者を特定しようとする被害者からの照準がうまくそ逸れて自分たちに向かってこないので、現実の加害者たちには都合が良く、彼らを喜ばせるだけといえます。

 

内容の信ぴょう性が皆目見当もつかないくらい、限りなく奇妙で奇怪きわまりない陰謀説が、被害者の間で通説的支持を得ているようにさえ見受けられます。この状況は、加害に抵抗しその撲滅を目指していくうえで、障害となっています。陰謀説を盲信しても、何の前進も生まれず、何の解決にもつながっていきません。状況の停滞、あるいは後退を招いています。

 

被害者の方々へ。実利がないだけでなく、目指す目標への障害にさえなっています。何でも悪いことはイルミナティのせいにしてしまう陰謀説に安直に引っ張られないようにしていきましょう。