みんな「コスタリカってどこ?」と訊く。一年前の私も同じことを思っていた。コスタリカがどこなのか知らなかった。私が留学を決心したのは志の高い理由からでは全くなくて、単調で退屈な学校生活に嫌気が差してとにかく遠いところに行きたかったから。

 

学校の勉強はちんぷんかんぷんで学校行事のたびに華やかに着飾る同級生を「かわいいなあ」と思って見ているだけの学生だった。問題こそなかったものの刺激のない日常。毎日生きているのか死んでいるのか分からない顔をして家と学校とオーケストラを行き来する私。遠い外国に行きたい、とぼんやり思った。

 

留学生の多くは、先進国や有名な国、魅力を感じる国を旅したいと思って留学先を決めるのだろうけれど、私は違った。「どうせ行くなら遠い国」のマインドと「とにかく遠くて日本からは誰も来ないような場所」というテキトーすぎる条件で世界地図を見た。ラテンアメリカ。映画や舞台の影響で少なからず憧れを抱いていたスペイン語。完璧だと思った(浅はか)。エクアドルやホンジュラスとも迷っていた。いずれも魅力ポイントは「遠い」ということで、コスタリカにこだわりはなかった。何なら全く知らない国だった。

 

オレンジ色の髪の毛を黒髪に戻して留学団体の研修に行った日。自身の留学動機について話す機会があった。中南米への留学内定生たちは「コスタリカのエコツーリズム」「自然と人々の繋がり」「ラテンアメリカの歴史」「スペイン語の特徴」…なんだか小難しい言葉を並べていて、私はそれをぽかんと口を開けて聞いていた。「物理的にとにかく遠いところが魅力的だからです」なんて言ったのは私だけだった。ちょっとくらいカッコつければよかったな。