「クロシマくんの旅だち」 第1話 (足元に咲く花 ) クロシマくんが一匹ぽっちになってしまったわけを誰にたずねたらいいのでしょうか、迎えに来てくれると信じたお母さんは姿を見せる事はなく、クロシマくんに一匹ぽっちの2回めの朝が訪れました、チシロちゃん、マシロちゃんのぬくもりの消えた冷たい落ち葉に顔をうずめたクロシマくんの小さな背中を朝のあたたかなひかりが包みました、目覚めた森の樹々の葉が風とかわすささやきは不安でさびしい一匹ぽっちの夜を過ごしたクロシマを深い眠りにいざなう子守唄、お空の一番高いところへ向かう途中の太陽がクロシマくんの頬の涙を光にかえて穏やかな海原に預けました、涙のかわいたクロシマくんは空と海 風と太陽が見守る大きな大地へ小さな一歩を踏みだしました、足元に咲く花がエールを贈る、赤ちゃんネコ クロシマくんの一匹ぼっちの旅の始まりです。 第2話 (お月様の小舟) クロシマくんにはお母さんがいてそしていつも側にはチシロちゃんとマシロちゃんがいました、お母さんが少しかがんではいれる入り口の奥に親子ネコが暮らす隠れ家がありました、お母さん、チシロちゃん、マシロちゃん、クロシマくんにとって短くてささやかな幸せの時をそっとつつむ木の葉のお宿、まだ夜が明けない暗いうちに出て、陽がしずむころに帰ってくるお母さん、3匹の子ネコは長い1日を片時も離れる事なく寄り添い仲良く過ごしていました、しばらくは静かにしていた子ネコたちでしたがジッとしていられなくなったクロシマくんが走りだすとチシロちゃんもその後を追います、隠れ家のお宿はきゅうくつで、クロシマくんとチシロちゃんが勢いあまってお宿の外へ飛び出してしまうのでは、とマシロちゃんは心配で目が離せません、遠くの地平線へ降りていく太陽、3匹の赤ちゃんネコは帰ってくるお母さんの姿が現れるのを今か今かと待っています、暗くなった空には太陽を見送った細い小舟のお月様が浮かんでいます、草を踏む足音、どんどん近づいてくる大きな身体が淡い月あかりに揺れる草木を踊らせています、3匹の赤ちゃんネコの長い1日が終わりました、お母さん、チシロちゃん、マシロちゃん、クロシマくんをお月様とお星様が見守る安らかで穏やかな夜がふけていきました。 第3話 (木の葉のお宿からの旅だち) 子ネコたちが遊ぶにはせますぎるけど親子ネコが家族でいられたぬくもりに満ちたお宿です、それでも日々つのっていく子ネコ達の広い世界への憧れ、3匹の子ネコの望みが叶えられるその日、いつもは出かけてるはずのお母さんがソワソワと落ち着かない様子で子ネコ達がお宿から出てくるのを待っていました、クロシマくんはお宿の外へ出られた喜びとそこにお母さんがいる幸せでスキップせずにはいられません、はしゃいでいるクロシマくんを残してマシロちゃんをくわえたお母さんがアッ と言うまに草木の中に消えて行きました、まだお宿の中のチシロちゃんでしたがクロシマくんに連れられて外へ出ると、戻って来たお母さんが今度はチシロちゃんをくわえて行きました、お母さんとチシロちゃんの後ろ姿を追うように樹々の葉の扉が閉じられていきます、すぐに戻ってくる、とその姿を見送るクロシマくんは、これがお母さん、チシロちゃん、マシロちゃんとのお別れのシーンであったと知っていく事になるのでした、これから始まると信じた家族の新しい暮らしは、お母さん、チシロちゃん、マシロちゃんとは別々のクロシマくんの一匹ぽっちの始まりでした、太陽がこいオレンジ色になって西の空へ降りていくのをクロシマくんは一匹ぽっちで眺めていました、お母さん、チシロちゃん、マシロちゃん 皆んなで暮らしたこのお宿を後にして姿を消した空にわずかな明かりを残した太陽と巣へ急ぐ遊びすぎた鳥達が1日の終わりを告げています、クロシマくんに一匹ぽっちの夜が訪れました、重たい試練を背負ったクロシマくん、お母さんを呼ぶ声はますます大きくなっていく悲しみに押しつぶされるように力なく小さくなっていきました、お母さんはなぜクロシマくんを置き去りにしたのでしょうか、とめどもなく流れ落ちる涙は一匹ぽっちの夜をこえて朝がきても尽きる事はありません、お母さん、チシロちゃん、マシロちゃんのいない一匹ぽっちの2回目の夜も明けて朝を迎えました、クロシマくんの流した涙の雨は試練という山の向こうへ架けられた大きな虹の橋になってクロシマくんが目指す未来へと導きます、クロシマくんが歩いたその後に花が咲き、涙の雨は虹にかわる、クロシマくんの夢や願いが咲きほこる未来でありますように。
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