▼長寿を目指すには腸内細菌の遺伝子研究が不可欠
まず、腸内細菌の研究が、ここ数年でなぜこれほど急激に進んだのかについて簡単にまとめておきたいと思います。
背景には、遺伝子解析技術の進歩があります。
少し前まで、細菌の研究といえば、シャーレの上で菌を培養することから始まりました。
生きた菌を寒天などでできた培地に置いて、適切な温度で育てると、菌が増殖してコロニーができます。
ひとつのコロニーは1種類の菌だけのカタマリになっているので、
こうすることで、菌を1種類ずつ分離して、その性質を調べていくことができます。
「単離培養」 研究の基本でした。
ところが、腸内細菌の大部分は嫌気性細菌と呼ばれる、酸素がある環境では育たない菌でした。
そのため、シャーレの上で培養しても、ほとんどの菌は死滅してしまいます。
科学者たちは腸内に非常に多くの種類の菌がいることに気づかず、腸内フローラの全体像を掴めていませんでした。
1990年代後半、新しい技術が登場します。
「16SリボソームRNA解析」と呼ばれる遺伝子を使った解析法によって、
培養をしなくても菌の種類を見分けることができるようになりました。
ただし、当時の解析装置では、腸内フローラ全体の莫大なデータを読み 解くには、とてつもない時間がかかることが問題でした。
その状況が2000年代後半になると一変します。
圧倒的な速さで遺伝子解析を行う機械、「次世代シークエンサー」が次々と開発され、
以前なら1年以上かかっていた解析作業が1日で終わるようになります。
さらに、2003年には、世界的プロジェクトとして進められていた「ヒトゲノム計画」が終わり、
遺伝子解析を得意とする科学者たちが、新たなフロンティアである腸内細菌の世界に乗り出してきました。
こうして、新しい解析法、新しい機械、そして、優秀な人材が結集することで、腸内細菌研究がにわかに活況を帯びたのです。
※「腸内フローラ10」